”外国人材”法案の議論が白熱!外国人労働者に対し必要な安全配慮義務とは?(弁護士:五十嵐亮)

 

外国人労働者の受け入れ拡大に向けた入管難民法改正案について、国会で激しい論戦が繰り広げられています。

この法案は、これまで技能実習生に限ってきた単純労働で新たな在留資格を設ける内容が盛り込まれています。

 

外国人労働者に関する法律問題は、様々ありますが、今回は、外国人労働者に関する統計情報を概観した上で、外国人労働者と労災事故(安全配慮義務)についてコメントしたいと思います。

外国人労働者どのくらいいる?

厚生労働省の発表によれば、平成29年10月末現在、外国人労働者を雇用している事業所数は、19万4,595所(前年比12.6%増)であり、外国人労働者数は、127万8670人(18.0%増)となっています。

外国人を雇用している事業所数及び外国人労働者数ともに平成19年に届出が義務化されて以来、過去最高の数値を更新しているとのことです。

国籍別の外国人労働者の状況

国籍別にみると中国が最も多く、外国人労働者全体の 29.1%を占めています。

次いで、ベトナムが18.8%、フィリピンが11.5%、ブラジルが9.2%という順番となっています。

特にベトナムについては対前年同期比で39.7%増加し、またネパールについても、31.0%と大幅な増加となっているとのことです。

都道府県別の外国人労働者の状況

都道府県別にみると、東京都が27.8%を占め、外国人労働者は東京都に集中していることがわかります。

次いで愛知8.0%、大阪6.6%、神奈川6.5%、埼玉4.7%の順となっています。

産業別の状況

産業別にみると、「製造業」が 22.2%を占め、次いで「卸売業、小売業」が 17.1%、「宿泊業、飲食サービス業」が 14.3%、「建設業」が 8.6%となっています。

「製造業」の事業所の占める割合は前年と比べ減少している一方、「建設業」は増加しているという結果となっています。

 

外国人労働者を多く受け入れている「製造業」や「建設業」は、労災事故が多く発生する業種です。

外国人労働者と労災事故(安全配慮義務)

ご存じのとおり、事業主は、労働者に対し、安全配慮義務を負います。

このことは、労働者が外国人であった場合でも同様です。

 

外国人労働者を雇用する際に問題となるのが「言語」の問題です。

労災事故の場面で生じ得るのは、外国人労働者が、作業手順を正しく理解していなかったために機械の操作を間違えて、怪我をしてしまうということです。

 

ブラジル国籍の労働者が、機械操作をする際に、ボタン操作を誤り、左手をはさまれ、後遺障害を負ったため会社に対して損害賠償請求をした件についての裁判例(静岡地裁平成19年1月24日判決)があります。

 

裁判所は、会社が具体的にどのような安全配慮義務を負うかという点につき、「具体的には、ポルトガル語でボタンに表示するとか、ボタンの色分け、番号をふる、ボタンの配置を変えるなどボタンの押し間違えを防止すべき措置を講ずる義務」を負うと判断しました。

 

また、同種の事案が問題となった名古屋地裁平成25年2月7日判決は、「研修生として来日し、日本語をほとんど理解できない中国人労働者に対しては、作業手順や注意事項及び事故発生時の対応等について、中国語で記載した書面を交付するか、中国語で説明した上、その内容・意味を正確に理解していることを確認するのでなければ、安全教育としては不十分であり、安全配慮義務を尽くしているとはいえない」と判断しました。

 

このように、外国人を雇用する際には、安全配慮義務という観点から特に慎重な配慮義務が求められることになりますので、注意が必要です。