吉本興業がカラテカ入江さんとの契約を解消 -事務所からの契約解消は可能か?-(弁護士:五十嵐亮)

 

お笑い芸人と所属事務所の契約解消が話題に

カラテカの入江さんが所属事務所「吉本興業」との契約を解消されたことが報道されています。

 

6月6日配信のFRIDAY DIGITALによれば、いわゆる「闇営業」を行い、しかも営業先が振り込め詐欺グループであったということから、吉本興業が契約解消という処分をとったということです。

 

 

吉本興業がカラテカ入江さんとの契約を解消 -事務所からの契約解消は可能か?-①

 

 

この報道に対して、ハリセンボンの近藤春菜さんが、出演番組内で、「契約解消というなら会社としても今後契約書をちゃんと作って」とコメントしたことにより、「契約書がないのに契約解消できるのか?」ということが話題になりました。

雇用契約と委任契約で異なる契約解消のルール

お笑い芸人と所属事務所の間の契約として、考えられる契約には「雇用契約」「委任契約」があります。

 

両者の違いは、契約の解消が自由か否かです。

 

雇用契約の使用者が一方的に契約を解消することを「解雇」といい、法律で「解雇権乱用法理」が定められていますので、使用者側から解雇するためには、厳しい要件があります。

 

他方、委任契約の場合、そのような要件はありませんので、契約解消は自由です。

 

このように、契約の法的性質次第で、契約解消のルールが異なりますので、契約解消が可能かどうかを検討するに当たっては、そもそもその契約の法的性質は何かということは非常に重要な争点となります。

お笑い芸人と所属事務所の雇用契約か委任契約か?

雇用契約と委任契約の違いは、「使用者の指揮命令に従って、時間的場所的拘束を受けているかどうか」という点です。

 

お笑い芸人は、事務所が指示した仕事を行うという側面がありますが、この点を強調すれば、雇用契約となります。

 

 

吉本興業がカラテカ入江さんとの契約を解消 -事務所からの契約解消は可能か?-②

 

 

出演番組、ネタの内容、芸名等を全て事務所が決め、ネタの稽古は事務所内で行い、芸人さんは決められた通り芸をするだけで、出演料は全て事務所に入り、完全固定給制ということであれば、より「雇用契約」的な側面が強いといえるでしょう。

 

他方、お笑い芸人は、一般的なサラリーマンとは異なり、仕事内容そのものは個々のタレントの才能、容姿、話術等によるところが大きくある程度自由な側面もあると思われます。

 

なので、出演番組、芸名、ネタの内容等は全て芸人さんの自由で、芸人さんのギャラの取り分が大きい代わりに固定給なしということであれば、「委任契約」的な側面が強いといえるでしょう。

 

このように、お笑い芸人と所属事務所の契約は、個々の契約内容次第(ケースバイケース)です。

 

この点については、裁判例上も定まった見解があるわけではありません。

 

東京地裁平成12年6月13日判決は、タレントと事務所の専属契約について、指揮命令関係があるとは言い難いと判断し、タレントは労働者ではないと判断しましたが、この裁判の控訴審である東京高等裁判所では、雇用契約類似の契約であると判断されており、一審と控訴審で判断が分かれています。

契約書がなくても契約は成立するのか?

雇用契約でも委任契約でも、契約書を交わさなくとも契約自体は成立します。

 

 

吉本興業がカラテカ入江さんとの契約を解消 -事務所からの契約解消は可能か?-③

 

 

雇用契約の場合、労働基準法により労働条件を書面によって明示しなければならないとされていますが、そのことと、契約の成立は別問題です。

 

実際に、雇用契約書がないケースは多数存在します。

 

例えば、未払い賃金請求をする際に、雇用契約がないと賃金額を立証するための直接的な証拠がありませんが、過去の給与明細などから賃金額を立証し、実際に就労した事実を立証すれば、未払い賃金請求をすることは可能です。

■反社会的勢力と関係をもったことを理由として契約を解消できるか?

報道によれば、入江さんと吉本興業のケースでは、契約解消の理由として、

 

①闇営業をおこなったこと及び

②その営業先が振り込め詐欺グループ(反社会的勢力)であったこと

 

が挙げられます。

 

仮に①の事情がなかった場合、②の理由のみで契約を解消することはできるのでしょうか。

 

 

吉本興業がカラテカ入江さんとの契約を解消 -事務所からの契約解消は可能か?-④

 

 

この点は、雇用契約と委任契約で大きく異なるところです。

 

前述のとおり、委任契約であれば、契約解消は自由ですが、雇用契約の場合には、解雇するためには、解雇理由に客観的合理的理由があり、解雇することが社会的に相当といえる必要があります。

 

例えば、相手が反社会的勢力とは知らずに、たまたま一回だけ忘年会に参加したという事情であれば、解雇は認められない可能性があります。

 

反対に、「反社会的勢力と知って忘年会に参加していた」、「それが常習化している」、「金品を受け取っていた」等の事情があれば解雇が認められる可能性が高くなるでしょう。

 

裁判例では、相撲力士が野球賭博を行っていたことや、野球賭博に関連した恐喝事件の現場で、暴力団関係者と疑われる者と協議したことなどを理由として日本相撲協会から懲戒解雇された事案で、懲戒解雇を適法とした事案があります(東京地裁平成25年9月12日判決)。

 

余談ですが、相撲力士と相撲協会の契約関係についても法律上の評価がとても難しいところです。

 

この問題に踏み込むと大変に長くなるので、また別の機会としたいと思います。

 

弁護士 五十嵐亮