クロレラチラシ配布差止等事件(弁護士:佐藤明)

本件は、消費者契約法(13条1項)に基づく適格消費者団体であるⅩが、健康食品の小売販売等を目的とするY株式会社に対し、日本クロレラ療法研究会が作成したものとして、不特定多数の消費者に向けクロレラ等の薬効を説明した新聞折り込みのチラシ(以下、本件広告)を定期的に配布することが、消費契約法4条1項1号の不実告知に該当し、同法12条の「勧誘」にあたるなどとして差止め等を求めた事案です。

 

最高裁がこの「勧誘」についてはじめて判断したもので実務上重要といえますので、以下に紹介します。

 

裁判所の判断

⑴ 原審(大阪高判H28.2.25)

原審では、次のように消費者契約法に基づく差止めを否定しました。

 

「消費契約法が、消費者と事業者との間の情報の質および量並びに交渉力の格差に鑑み、事業者の一定の行為により消費者が誤認し、又は困惑した場合について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができることとすること等を目的とする(同法1 条参照)法律であること、すなわち消費者について一定の状況下で契約が締結され、又は承諾の意思表示がされた場合にその契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消しを認めることを目的とする法律であることに照らせば、規制の対象となる同法12 条1項及び2 項にいう「勧誘」には、事業者が不特定多数の消費者に向けて広く行う働きかけは含まれず、個別の消費者の契約締結の意思表示の形成に影響を与える程度の働きかけを指すものと解する。

そうすると、特定の者に向けた勧誘方法であれば規制すべき勧誘が含まれるが、不特定多数向けのもの等、客観的に見て特定の消費者に働きかけ、個別の契約締結の意思の形成に直接影響を与えているとは考えられないものについては、勧誘に含まれないと解するのが相当である。」

 

なお、景品表示法(優良誤認)による差止めも求められていたところ、1 審判決(差止めを認めた)の後に本件チラシの配布を行っていないことなどから、差止めの必要がないものと判断しています。

⑵ 最高裁の判断(H29.1.24)

ところが、最高裁は上記原審の「勧誘」の判断を是認できないとして、次のように判断しています。

 

「「勧誘」について法に定義規定は置かれていないところ、例えば、事業者が、その記載内容全体から判断して消費者が当該事業者の商品等の内容や取引条件その他これらの取引に関する事項を具体的に認識し得るような新聞広告により不特定多数の消費者に向けて働きかけを行うときは、当該働きかけが個別の消費者の意思形成に直接影響を与えることもあり得るから、事業者等が不特定多数の消費者に向けて働きかけを行う場合を上記各規定にいう「勧誘」に当たらないとしてその適用対象から一律に除外することは、上記の法の趣旨目的に照らし相当とはいい難い。

したがって、事業者等による動きかけが不特定多数の消費者に向けられたものであったとして

も、そのことから直ちにその働きかけが法12条1項及び2項にいう「勧誘」に当たらないということはできないというべきである。」

 

なお、結論としては、差止めの必要がない(現に行い又は行うおそれがあるとはいえない)ものとして原審の判断を肯定しています。

 

最高裁の判断の意義について

  • 消費契約法上の要件(前提知識)

本件では、チラシの差止めが認められるかどうかにつき、その要件のうち「勧誘」の意義が争われてきました。

もっとも、その要件のみで差止めが認められるわけではなく、次の法に規定している要件を満たす必要があります。

 

不当誘導に対する差止め等(法12 条及び法4 条参照)
  • ⑴ 事業者が消費者契約の締結について勧誘するに際し
  • ⑵不特定かつ多数の消費者に対し次の不当な行為をすること
  •  ①不実告知 ②断定的判断の提供 ③不利益事実の不告知
  • ⑶ 上記行為を現に行いまたは行うおそれがあるとき
  • 「勧誘」の要件について

この最高裁の判断までは、消費者庁の逐条解説消費者契約法(商事法務)にあったように( なお近時改正)、広告やチラシの配布については、「勧誘」に当たらないとするのが行政の立場でした。

原審の判断もそのような考え方に沿う判断だったといえるでしょう(これに反対の立場が学説上は通説です。)。

ところが、最高裁はこれを否定して勧誘に当たる場合がありうると判断しました。

どうしてそのような判断をしたのかですが、それまでの上記のような考え方が広告やチラシ等の性格から類型的に一律にこれを否定するものであったところ、個別具体的に検討すれば消費者の意思決定に直接影響を与える、勧誘に当たる場合もあり得るとして法の趣旨である消費者保護の観点をより明確に示したのではないかと考えます。

ただ今後反対に、広告やチラシなどは一律に「勧誘」に当たるとしたわけではなく、個別具体的な検討を踏まえて当たるかどうか見なければならないとものと考えられます。

前述のように最高裁は結論としては差止めを認めず原審と同じですが、事業者に対して安易に広告やチラシなどの配布を行うことへ慎重な対応を求める判断がされたものといえます。

 

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 佐藤 明

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2017年6月5日号(vol.209)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。