2014.11.14

いわゆる「書籍自炊業者」と著作権(弁護士朝妻太郎)

作家らによる訴訟提起

 

いわゆる書籍の「自炊業者」(利用者から送られた書籍を裁断し、スキャナーによりデジタルデータ化し、そのデータを利用者に提供する業者。

利用者は書籍の内容をデジタルデータとして使うことができるようになります。)に対して、著名な作家・漫画家らが、著作者の許諾のないスキャン事業の差し止めと、損害賠償を求めて提訴していました。

 

そして平成26年3月17日、その事件について最高裁判所が自炊業者側の上告を退ける判断を示し、2審の知的財産高等裁判所の判決が確定しました。

作家ら側の勝訴(事業の禁止と70万円の賠償命令)という結果です。

ニュースでも取り上げられていたので、ご存じの方もいらっしゃるかもしれません。

著作物・著作権

著作権法上では、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術、音楽の範囲に属するもの」とされています(著作権法2条1項1号)。

 

定義を見ただけではよくわからないと思いますが、具体的には、言語(論文・小説・記事・脚本など)、音楽、舞踊、美術、建築、図形(図面・模型など)、映画、写真、コンピュータ・プログラムなどが含まれます。

 

そして、当該著作物の著作権が誰に帰属するのかと言えば、原則として著作者(著作物を創作した者)となります。

 

企業の従業員が著作を行った場合にも原則として著作権は、その従業員に帰属しますが、

1. 当該著作が企業の発意に基づくこと、

2. 業務従事者が職務の一環として作成したこと、

3. 企業が自己の著作名義を公表すること(企業の名義で公表すること)、

4. 従業員との契約・就業規則等で著作権についての特別な定めが無いこと、

の全てを満たす場合には企業に著作権が帰属することになります。

 

そして、その著作権を有する者は、無断で著作物を改変されたり公表されず、また無断でコピーされたり、公衆に伝達されたり、加工されないことになります。

著作物の第三者による利用

そうは言っても、一切合切コピーが許されないわけではありません。

たとえば、私的使用のための複製、図書館等における複製、裁判手続のための複製などは法律で許容されます。

 

ですから、個人的な勉強のために書籍をコピーしたり、個人利用のためにCDから音楽を録音することは許されます。

また、私どもが皆さんから依頼を受けた事件で、書籍の写しを証拠として裁判所に提出することもありますが、これも問題になりません。

作家らの主張と自炊業者の言い分

話が脇に逸れました。

最初に紹介した事件では何が問題となったのでしょうか。

 

いわゆる自炊業者は、利用者から依頼を受けた上で、書籍を裁断してデジタルデータ化し、そのデータを利用者に提供することを業務としています。

作家らは、この自炊業者が行う行為が、著作権侵害に当たると主張しました。

 

他方、自炊業者側は、自分たちがデータ化する行為は、利用者の代行に過ぎず、データを作成した主体は利用者と見るべきであり、利用者の「私的使用のための複製」に過ぎない等と主張しました。

つまり自炊業者は利用者の手足として動いて複製を作成したに過ぎない、というのです。

裁判所の判断

これに対して、裁判所は、まず複製を行った主体が自炊業者であると認定しました。

 

いわゆる自炊作業のうち、裁断した書籍をスキャナーで読み込み電子ファイル化する行為が、まさに「複製」行為であること、自炊業者は独立した事業者として営利を目的として自炊作業を行っているのであるから、利用者から独立した立場にあり、自炊業者が複製行為の主体に当たると判断したのです。

 

そして、法律が複製を許容する「私的使用のための複製」は、使用者が私的利用するために複製することを許容しただけであって、自炊業者による複製作業は、自炊業者自身が私的利用する目的で複製しているわけではない(利用者の利用のために複製している)のであるから、「私的使用のための複製」として許容される複製には当たらないと結論づけました。

 

高等裁判所の判決が下された段階では、この判断に対して、著作者(執筆者)サイドからは好意的に捉えられている一方、ネット利用者等からは批判的な意見も出ていたわけですが、最高裁の判断により一応の決着が付いた形になりました。

著作物の利用に注意を払う必要性

企業の皆様にとっては著作権を意識することは、自炊業者のような業種のみならず重要です。

たとえば、何の気なしに書籍に記載されている内容を、貴社の刊行物等に掲載するなどしていませんか?

 

最近では、刊行物の発行のみならずホームページ上での情報発信や、メルマガ・SNSなど様々な方法により発信することが可能となっています。

文字情報だけでなく、音楽、動画など様々な形の情報を発信することも容易になっています。

 

意図しているか否かにかかわらず、ある著作物を無断で引用・転載してトラブルになることも十分に想定されるところですので、少しでも著作物とそれに関わる権利について考えていただければと思います。

 

弁護士 朝妻 太郎

 

<初出>

・顧問先向け情報紙「こもんず通心」2014年11月14日号(vol.162)一部加筆修正

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。