2026.7.24

労働者が申し出た退職日よりも前の日を退職日と指定することは解雇に該当するとされた事例~ 東京地裁令和7年5月22日判決(労働判例1345号5頁)~

競業避止義務違反に対する違約金が有効とされた事例

事案の概要

当事者

被告(Y社)は、水たばこバーの運営事業等を営む株式会社である。


被告(X)は、令和5年12月にY社と労働契約を締結し、水たばこバーの店長として勤務していた者である。

退職に至る経緯

令和6年3月23日(以下、月日の記載はいずれも令和6年のものを指す)、Xは、上司に対し、5月15日付で退職したい旨、申し出た。


3月26日、Y社本社において、Y社代表者、営業部長等が、Xの退職について協議し、Y社代表者は、Xの退職日を4月10日とすることとした。


3月28日、Xは、Y 社本社に呼び出され、営業部長及び上司と面談をし、「退職日を4月10日と決めさせていただきました。」と告げられた上で、Y 社から渡された「守秘義務に関する誓約書」(本件誓約書)に署名・押印した。

本件誓約書には、「退職日である4月10日をもってその雇用関係が終了する」との記載が含まれていた。

面談の所要時間は、約10分であった。


3月29日、Xは、労働基準監督署に問い合わせたところ、本件(申し出た退職日よりも前倒しで退職させること)は、解雇に当たると回答を得たとして、Y社に対し、解雇証明書の発行と解雇予告手当の支払いを求める旨LINEメッセージを送信した。


4月3日、Xは、営業部長と1時間程度、面談を実施した。

同日の夜、Xは、上司に対し、

「5/15まで働きたかったし、なんの説明もなく4/10になりました。サインしてくださいじゃ納得できませんでした。もうサインしなきゃいけないような状況でサインさせられただけで全く納得できていません。4/10で私は退職になりますが、労基署に聞いたとおり、17日分のお給料を貰いたいと思います」

とのLINEメッセージを送信した。

4月10日、XはY社を退職した。

Xの請求内容

Xは、労働者が申し出た退職日よりも前の日を退職日と定めて退職させることは解雇に該当する旨主張して、解雇予告手当の支払いを求めて提訴した。

本件の争点

本件の争点は、①労働者が申し出た退職日よりも前の日を退職日と定めて退職させることが解雇に該当するか、②本件誓約書に対する同意は有効かという点である。

裁判所の判断

争点①について

裁判所は、労働者が退職日を定めて退職の申入れをした場合に、使用者が労働者の申し出た退職日より前の日を退職日と定め、これに従って労働者が退職したときは、労働者は、使用者からの一方的な意思表示によって、自己が申し出た退職日までの期間における労働契約上の地位を喪失したことになるため、このような使用者による一方的な退職日の指定については、労働者が同意した場合を除き、使用者による一方的な労働契約の解約として実質的な解雇に当たると解するのが相当である旨判断した。

争点②について

裁判所は、Xは、もともと5月15日限りでの退職を希望していたのであり、退職日が同日から4月10日に変更となった場合、その間の1か月分以上の賃金が支払われず、Xは相応の不利益を被ることになることから、このような変更を受け入れるか否かについては、慎重な検討を要したはずであるが、3月28日の面談はわずか10分程度で終了しており、Xにおいて退職日の指定を受け入れるか否かについて、慎重に検討した上で本件誓約書に署名・押印したとは考え難いとして、本件誓約書に同意したとは認められない旨判断した。

結論

以上から、裁判所は、Y社によって退職日を4月10日に変更したことは解雇に当たり、Xがかかる退職日の変更に同意したとは認められないことから、Y 社は、X に対して、3月28日からの解雇予告手当合計20万2521円を支払うべきと判断した。

本件のポイント

本件では、労働者が申し出た退職日に対して、使用者がそれよりも前の日を退職日と指定することは、労働者の同意がない限り、実質的に解雇に該当するとして、使用者が退職日を指定した日からの解雇予告手当を支払う必要があると判断されました。


自主退職する際には、労働者は退職日を自ら決定することができることから、この結論は妥当なものといえるでしょう。


また、このような退職日の前倒しは、賃金の減額を意味することから、労働者の同意を得る際には、慎重に同意を得る必要があります。

少なくとも、退職日を前倒しすることによって実質的に減額となる賃金の金額を具体的に説明することや一定の検討時間をおくことが必要になるでしょう。


<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2026年5月5日号(vol.315)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 五十嵐 亮

五十嵐 亮
(いからし りょう)

一新総合法律事務所
理事/弁護士

出身地:新潟県新潟市 
出身大学:同志社大学法科大学院修了
長岡警察署被害者支援連絡協議会会長(令和2年~)、長岡商工会議所経営支援専門員などを歴任しています。
主な取扱分野は企業法務全般(労務・労働・労災事件、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)、交通事故、離婚。 特に労務問題に精通し、数多くの企業でのハラスメント研修講師、また、社会保険労務士を対象とした労務問題解説セミナーの講師を務めた実績があります。
著書に、『労働災害の法律実務(共著)』(ぎょうせい)、『公務員の人員整理問題・阿賀野市分阿賀野市分限免職事件―東京高判平27.11.4』(労働法律旬報No.1889)があります。

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