出産後1年を経過していない保育士に対する 解雇の有効性 ~東京地裁令和 2 年 3 月4日判決~(弁護士:五十嵐亮)

 

この記事を執筆した弁護士
弁護士 五十嵐 亮

一新総合法律事務所
弁護士 五十嵐 亮

一新総合法律事務所理事/長岡事務所所属

2009年弁護士登録。 事故賠償チームに所属。交通事故に関するセミナー講師実績多数。 依頼者の方々に対しては、懇切丁寧なコミュニケーションを行い、よりよい解決に導けるよう心がけております。

事案の概要

当事者

原告Xは、平成25年春にY法人に正規職員として登用され、保育士として勤務していた者である。
被告Y法人は、認可保育園や障害者支援施設等を経営する社会福祉法人である。

 

◆産休取得後解雇に至る経緯

平成25年 春 XがY法人に正規職員として登用
平成29年 4月 1日 Xが産休に入る
平成29年 5月10日 X出産
平成30年 3月 9日 Xが、Y法人に対し、平成30年5月1日を復職日としたい旨を伝え、復職後に時短勤務を希望する書類を提出
平成30年 3月23日 XとY法人理事長が面談し、Y法人理事長がXに対し、復職させることはできない旨伝える
平成30年 3月26日 Y法人がXに対し、解雇理由証明書を交付

 

Y法人が主張する解雇理由

Y法人は、Xが他の保育士4名程度とグループを作り、園長の提案に従わず、ことあるごとに園長に対し、批判的言動を繰り返していたという態度が、職場環境を著しく悪化させ、Y法人の業務に支障を及ぼす行為であった旨主張した。
Y法人が主張するXの言動は多岐にわたるが、概要は以下のとおりである。

 

ア 原告は0歳児クラスの担任であったが、全クラスの保育に関し口を出すようになった

イ お楽しみ会の内容について「園長とリーダーが勝手に決めた」と発言した

ウ 職員現況等調査において、他の職員と合わせたかのように園長とリーダーの批判を記載した

エ 「園長とリーダーだけで保育方針を話し合っている」と主任に告げ口した

オ ミーティングにおいて保育方針を話し合ったところ、原告のグループは園長の意向を頭から否定し「何も変わってない」と吐き捨てるように発言した

カ 原告のグループの結束は固く、園長はやり辛い日々が続き、リーダーは毎日涙しながら勤務していた

 

Xの請求内容

Xは、Y法人が行った解雇に客観的合理的理由及び社会通念上相当性があるとは認められず、権利の濫用に当たり、また、男女雇用機会均等法(以下、「均等法」)9条4項に違反することから無効であると主張し、解雇日以降の賃金等の支払いを求めて提訴したものである。

 

本件の争点

本件の争点は、主に以下の2点である。

 

①上記ア~カの言動があったことを証拠上認定できるか
②上記ア~カの言動が認定できたとして、このような言動を理由とした解雇は、均等法9条4項に違反しないか

 

裁判所の判断

均等法9条4項について

まず、裁判所は、均等法9条4項の趣旨について「妊娠中及び出産後1年を経過しない女性労働者に対する解雇を原則として禁止しているところ、これは、妊娠中及び出産後1年を経過しない期間については、原則として解雇を禁止することで、安心して女性が妊娠、出産及び育児ができることを保障した趣旨の規定であると解される」と判断した。

 

そして、均等法9条4項但書きは、妊娠、出産等を理由とする解雇ではないことを証明したときはこの限りでないと規定するところ、この但書きの要件を満たすためには、使用者側において、妊娠、出産等以外の客観的に合理的な解雇理由があることを立証する必要があると判断した。

 

本件について

まず、争点①について、原告以外にも園長はじめ複数の保育士が証人として出廷し、証人尋問を実施したが、裁判所は、原告が、原告のグループとされる保育士らとともに「意図的に園長に対する反抗的、批判的態度をとっていた事実は認められず、質問や意見をされた側の主観的な受け止め方によるところも否定できない」とし、上記ア~カの事実を認定することはできないと判断した。

 

その上で、争点②については、原告の言動が、上司である園長に対するものとして、適切ではないと評価し得る部分がないとはいえないとしても、質問や意見を出したことや保育観が違うこともって、解雇に相当するような問題行動であると評価することは困難であるとして、Y法人による解雇は、客観的合理的理由が認められず、均等法9条4項に違反し、無効であると判断した。

 

本件のポイント

本件のように、勤務態度を根拠として解雇を実施する場合には、上記ア~カのような一つ一つの事情を使用者側が立証する必要があり、立証が難しい部類の解雇理由です。

 

立証手段としては、録音やメール・LINEなどが直接的で最も有効ですが、そのような立証方法をとることが困難であれば、職員に問題行動があった場合に、逐一報告書を作成しておくことでも一定の証明力はあると思われます。

 

そのような客観的な証拠資料が全くない場合には、本件のように職員を証人とするしかありませんが、解雇された職員の勤務態度不良を職員による証人のみで立証することは難しいでしょう。

証人として出廷することによる職員の心理的負担が大きいため、使用者側のデメリットも大きいと思われます。

 

以上のとおり、勤務態度不良を理由とする解雇の場合には、いかに有効な客観的証拠を集めるかがポイントとなりますので、早い段階で弁護士にご相談されることをお勧めします。

 

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2020年12月5日号(vol.251)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

 

 

 

 

 

 

 

       

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