2019.8.9
有期労働契約に関する 65歳更新上限規定に基づく雇止めの適法性
平成30 年9 月14 日、最高裁で、一定年齢に達した場合の雇止めの有効性に関する初めての判断が示されました。
事案の概要
同判例は、日本郵政公社の民営化に伴い事業承継した日本郵便株式会社の非常勤職員が、同社の「会社の都合による特別な場合のほかは、満65 歳に達した日以後における最初の雇用契約期間の満了の日が到来したときは、それ以後、雇用契約を更新しない」旨の就業規則(以下、「本件上限条項」という。)に基づく雇止めの効力を争った事案です。
最高裁の判断
この事案で最高裁は、
「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、当該労働条件は、当該労働契約の内容になる(労働契約法7 条)」
とした上で、
「本件上限条項は、期間雇用社員が屋外業務等に従事しており、高齢の期間雇用社員について契約更新を重ねた場合に事故等が懸念されること等を考慮して定められたものであるところ、高齢の期間雇用社員について、屋外業務等に対する適性が加齢により逓減し得ることを前提に、その雇用管理の方法を定めることが不合理であるということはできず、被上告人の事業規模等に照らしても、加齢による影響の有無や程度を労働者ごとに検討して有期労働契約の更新の可否を個別に判断するのではなく、一定の年齢に達した場合には契約を更新しない旨をあらかじめ就業規則に定めておくことには相応の合理性がある。
そして、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律は、定年を定める場合には60 歳を下回ることができないとした上で、65 歳までの雇用を確保する措置を講ずべきことを事業主に義務付けているが(8 条、9 条1 項)、本件上限条項の内容は、同法に抵触するものではない。」
「本件上限条項は、……労働契約法7 条にいう合理的な労働条件を定めるものであるということができる。」
と述べ、結論として
「上告人らと被上告人との間の各有期労働契約は6 回から9 回更新されているが、上記のとおり、本件上限条項の定める労働条件が労働契約の内容になっており、上告人らは、本件各雇止めの時点において、いずれも満65 歳に達していたのであるから、本件各有期労働契約は、更新されることなく期間満了によって終了することが予定されたものであったというべきである。
これらの事情に照らせば、上告人らと被上告人との間の各有期労働契約は、本件各雇止めの時点において、実質的に無期労働契約と同視し得る状態にあったということはできない。……期間満了後もその雇用関係が継続されるものと期待することに合理的な理由があったということはできない」
と判断し、雇止めを有効としました。
「雇止め」の問題
期間を定めての労働契約についても、自由に契約を終了し更新を拒絶できるわけではありません。
過去には、形式的に有期労働契約の形を利用することで、法が定める解雇制限の抜け道として利用されているような企業も多く存在しました。
裁判所は、このような問題事例を受け、これまでの裁判例の中で、期間満了で当然に契約関係が終了する事案のみでなく、解雇に関する法理の類推適用により契約終了が制限され、結果として雇止めを制限する判例法理を形成してきました。
これまでの判例の中では、業務内容、契約上の地位、当事者の認識や期待、更新手続きの実態、これまでの運用状況などから、事実上無期労働契約と同視しえる状況であるかどうか、更新に対する合理的期待が認められるかなどの枠組みで、雇止めの可否が判断されてきました。
そして、このような判例法理を受け、平成24年の労働契約法改正で、同19 条で、同様の規定が定められるに至りました。
本判決は、その延長上で、65 歳上限を定める就業規則の効力について明示されたものと言えます。
本件判例の意義
本判例は、有期契約社員に関する65 歳更新上限の就業規則の合理性を認めて有期契約社員について定年類似の制度を認め雇止めの有効性を肯定した最初の判例であり、この点で、一般中小企業においても参考になる先例といえるでしょう。
但し、本判例は、民営化にあたり、旧公社の労働条件は引き継がれないと判断し、不利益変更の問題とは捉えずに判断されている事案であることから、一般企業で新たな就業規則の変更を行う際には、別途の注意を要することは留意すべきでしょう。
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2019年6月5日号(vol.233)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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