2020.5.20
忘年会における従業員による暴行と使用者責任の有無~東京地裁 平成30年1月22日判決~
事案の概要
当事者
原告であるXは、被告Y会社が経営していたA水産B店に勤務していた者である。
被告であるY社は、飲食店の経営等を目的とする株式会社である。
忘年会での傷害事件の発生
Xは、平成25年12月29日に午前0時から、近くの焼き肉店で開催されたB店の忘年会(一次会) に参加した。
Xは、その後、同日午前2時30分から、引き続き開催されたカラオケ店での二次会にも参加した。
Xは、平成25年12月29日午前3時50分ころ、二次会会場のカラオケ店において、同僚であるZより、右脇腹を左手の拳で殴るなどの暴行を受けた。
翌日、通院したところ、右肋骨骨折、頸部打撲及び右肘打撲と診断された。
その後、Zは、東京簡易裁判所に傷害罪で略式起訴され、罰金30万円の略式命令(有罪)を受けた。
Xの請求内容
Xは、Y社に対し、使用者責任(民法715条※1 )に基づき約230万円の損害賠償を求め、東京地方裁判所に提訴した。
争点
本件の争点は、主に、忘年会の席における従業員同士の怪我について、会社が損害賠償責任 (使用者責任)を負うか(忘年会が職務に関連するかどうか)という点である。
裁判所の判断
Y社の主張
Y社は、
- 本件の忘年会は、業務外の私的な会合である
- Xは忘年会当日は出勤日ではなかった
- 本社の管理部には何も報告されていなかった
- Y社では、このような行事は禁止されていた
ことを理由として、忘年会は職務に関連がなく、 忘年会で発生した怪我についてY社に使用者責任はないと主張した。
裁判所の判断
これに対し、裁判所は、
- 忘年会には、定年退職者と異動者の送別会の趣旨もあった
- 発案者がB店の店長であった
- 一次会はB店の営業終了後に同店近くの焼き肉店で開催された
- Xは出勤日ではなかったが、店長から参加を促されていた
- B店の従業員は全員参加していた
という事実を認定し、二次会も「職務と密接な関連性がある」と判断した。
また、二次会の職務関連性については、
- 二次会は公共交通機関による帰宅が不可能な午前2時30分から開催されている
- 一次会に参加した者は事実上二次会にも参加せざるを得ない状況にあった
- 現に、一次会参加者全員が、二次会にも参加した
という事実を認定し、二次会も「職務と密接な関連性がある」と判断した。
Y社が忘年会のような行事を禁止していたという点については、「上記事情に照らせば、本件忘年会が被告会社の事業の執行につき行われたものであることは否定できない」と判断した。
結論として、裁判所は、Y社に対し、約60万円の損害賠償の支払いを命じた。
本件のポイント
会社は、労働者が事業の執行について第三者に損害を生じさせた場合には、会社もその損害を賠償する責任を負います。
これを「使用者責任」 といいます。
使用者責任(民法715条)は、使用者は、他人 (被用者)を使用して事業を営み利益を得ているのであるから、被用者が他人に損害を加えたときには、使用者もこれを賠償すべきとするのが公平であるとの考えに基づき定められたものです。
このような考え方から、最高裁は、「事業の執行について」(職務関連性)を広く解釈しており、 行為の外形上、使用者の事業と認めることができるものの他、これと牽連関係に立つ行為についても「職務関連性」を認める傾向にあります。
過去に使用者責任を否定したものとしては、出張先から自家用車で帰る途中に起こした事故の事例があります。
本件では、会社が禁止している忘年会のほか二次会までも職務関連性を認めていますが、発案者が店長であること、全員参加していたこと、二次会も事実上参加せざるを得ない状況にあったことなどの事情が重視されたものと思います。
実務の参考になればと思います。
※1 民法715条1項
「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、 この限りでない。」
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2020年3月5日号(vol.242)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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