従業員の退職時のよくある疑問点Q&A

今回の法務情報では、従業員が退職するときのよくある疑問点についてピックアップしてみます。

Q.退職「届」と退職「願」は違うのですか?

A.違うとされています。

 

「届」は、労働者の一方的な意思表示による労働契約の解消(辞職)の通知であり、使用者による承諾は不要、撤回は不可とされます。

「願」は、使用者の承諾を期待してなされる合意解約の申込行為であり、使用者による承諾が必要、承諾の意思表示が到達するまでは撤回可とされます。

 

もっとも、労働者が両者の違いを知って提出するとは限りませんので、具体的な事情も踏まえて判断されることになるでしょう。

 

Q.従業員が突然退職したために会社に損害が生じた場合、従業員に損害賠償請求できますか?

A.辞職による退職は、少なくとも退職申入れから2 週間の経過が必要です(民法627条1項)ので、このような場合、無断欠勤となり、労働契約の債務不履行として、それによって会社に生じた損害の賠償を請求することができます。

 

もっとも、具体的な損害の発生や相当因果関係を証拠によって明らかにしなければならず、実際上はそれほど容易なことではありません。

 

Q.退職間際に有給休暇をまとめて取得することを認めないことはできますか?

A.会社は事業の正常な運営が妨げられる事由がある場合には年休の時季変更権を行使することができますが、退職予定者について退職予定日を超えて時季変更することはできません。

 

会社としては、未消化の年休を買い取る義務はありませんが、業務の引継ぎをしっかりやってもらうことを前提に年休の残日数を買い上げるといった妥協案をとることも検討対象となるでしょう。

 

Q.退職した月の社会保険料は賃金から控除するのですか?

A.社会保険の資格喪失日は、退職日の翌日であり、資格喪失日の属する月は社会保険料を徴収しないこととなっています。

 

したがって、月の最終日に退職した場合(資格喪失日が翌月となる)を除いて、退職月の社会保険料の徴収は不要ですので、給与から控除しないのが正解となります。(図表)

 

 

Q.従業員への貸付金を賃金や退職金と相殺してよいですか?

A.退職時に貸付金残金があったとしても、一方的に賃金等の反対債権で相殺することは、「賃金全額払いの原則」に反するので認められません。

 

もっとも、労働者の自由な意思に基づいて相殺に同意したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときには、同意を得て相殺することには問題ないものとされています。

 

Q.従業員が退職時の誓約書の提出に応じない場合にはどうすればよいのですか?

A.退職後の従業員に秘密保持義務や競業避止義務の遵守を誓約してもらう誓約書は、労働者に新たな義務を課すものであることから、従業員が応じない場合に提出を強制することはできません。

 

その意味では、就業規則において予め定めておいた方がよいことになります。

 

もっとも、誓約書の提出や就業規則の定めによっても、これらの義務違反による法的責任を追及することが常にできるものではありません。

 

秘密保持義務については、営業秘密として保護される要件(秘密管理性、有用性、非公知性)のうち、秘密管理性の要件を充たさないケースがよく見られます。

 

競業避止義務については、労働者の職業選択や営業の自由に対する制約となるので、制限期間が長い、制限エリアが広い、制限職種・業種が広い、制限の代償が不十分といった理由で、その全部又は一部が無効となってしまうケースも少なくありません。

 

Q.死亡退職金は、亡くなった従業員の相続人に支払えばよいのですか?

A.就業規則(退職金規程等を含む。)で受給権者を定めている場合にはそれにより、そうでない場合には民法の定める相続人となります。

 

会社にとって、相続人を調査することは負担です。実務上は、就業規則等で労働基準法施行規則の遺族補償の受給順位を準用しているケースが多く見受けられます。

 

その場合には、まず配偶者(内縁を含む。)、配偶者がいない場合には、生計を一緒にしていた子、父母、孫、祖父母の順となります。

 

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2018年7月5日号(vol.222)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

 

この記事を執筆した弁護士

弁護士 今井 慶貴

一新総合法律事務所
弁護士 今井 慶貴

一新総合法律事務所副理事長/新潟事務所所長/企業法務チームリーダー/2000年弁護士登録

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