SNSとインターネットのリテラシー〜あなたは使いこなせますか〜(弁護士:和田光弘)

1 はじめに

私はソーシャル・ネットワーキング・サービス、略してSNSをほとんど使っていない。唯一、家族との間でLINEを使うことだけで、フェイスブックもツイッターも、インスタグラムも、なんとかなんとかも、使わない。というか、本当は、使いこなす能力(いわゆるリテラシー)が無いに等しい。

 

なにせ自慢じゃないけれど、自分の携帯電話をスマホにしてから、使用開始のための使用者認証(本来の使用者かどうかの確認)のために、ずっと暗証番号を使っていたら、それを見た娘が「お父さん、顔認証があるよ」と言い出し、チャチャチャと顔認証のやり方でセットをしてくれたほどだ。自分の顔をなんだか360度回転させながら、スマホに認識させたらこれが結構便利でしょうがない。もしかしたら、SNSもちょっと教えてもらえば、案外便利なのかもしれないと思いつつ、自分では怖さと煩わしさが先に立つ。

2 怖さの意味

最近、SNSを通じた犯罪被害が相次いてでいる。

 

一つは、SNSに投稿したアイドルの写真が元で、その写真に写ったアイドル自身の瞳の景色が読み込まれ、ファンを自称する男がアイドルのマンションに侵入した事件だ。

 

男は、女性が最寄りの駅で撮った顔写真を拡大し、瞳に映り込んだ景色を確認し、さらに、それまでの女性の投稿から推測される利用路線の沿線の景色をグーグルの地図サイトであるストリートビューで照合して、女性の駅を割り出したらしい。さらに、最寄りの駅で待ち伏せし、女性のマンションを突き止め、部屋まで突き止めたという。

 

いやあ、その気になるとここまでやれるのかと思う反面、やっぱり下手にSNSを利用すると大変だなと思ってしまう事件だ。

 

次の事件は、SNSで事件被害にあった少年少女が1811人という警察庁発表だ。有名なところでは、「ハーメルンの笛吹き」ならぬ、栃木県の男による少女の未成年者誘拐事件である。その後も、この事件のみならず、「親のところが嫌なら」と呼び出して、自宅に連れ去った事件がいくつか報道されている。

 

ここまでくると、SNSを使いこなす能力、リテラシー教育がなされているのかと疑問にもなる。しかし、自分のことを振り返れば、我が子に面と向かって「リテラシーは大丈夫か」とも聞いたことがないので、あまり偉そうな顔もできない。強いて言えば、SNSがこれほど広まったのは最近のことなのだ、と思いたい。

 

彼の国の大統領が、当選前の選挙中から、自分の宣伝や牽強付会な自己主張を繰り返したあたりから、テレビニュースでも取り上げられるようになったのは、確かここ数年のはずだ。

3 リテラシーはどうすれば

しかし、もはやSNSは広がってしまった。

 

リテラシーの能力を身につけるも、つけないも、とにかく子供達も含めて、皆がSNSが利用できる道具を持っているのだ。

 

私が、小学生になった孫に携帯電話があることを知って、いたずらに携帯番号のメッセージ機能を使って、対話を楽しもうと直接メッセージを送信したら、何か味も素っ気もない、とても本人が送ったとは思えない「ありがとう」メッセージのみが送られてきたことがある(最初はきっとお母さんが送ったのだろうと思ったが、それにしては機械的すぎる気もしている)。これが何なのか確かめる気にもならず、以後、この手のいたずらはやめたが、実はこうした私のような「不埒な大人」が案外世間には多いに違いない。祖父と孫の関係ならまだしも、見知らぬ若い大人と子供ならどうなのだろう。犯罪っぽく見えてくる。

 

まずは、子供達に、たぶん、小学校1年生くらいから、結構「悪い大人」がいることを教えざるを得ない。どんなに悪いやつなのかは、本当に起きた事件から教えるしかない。それでも、その純粋な瞳を曇らせる「人を疑う心」と「賢さ」を身につけさせるのはとても難しい仕事だろう。

 

となると、私が受けた仕打ちのように、自動的に相手にしない機能や自動的に接触を禁じる機能を、「フィルタリング機能」(たぶん、そのような機能ではない気もするが、とりあえずそう言っておく?)などを通じて対応するしかない。

 

ただ、それにも、限界があるから過信はできない。時間制限やら、子供との話し合いやら、とにかく、ルールが必要になってくる。

 

もっと大きな人たち、若者にはどうしたらいいのか。

 

やはり、犯罪になった事例が一番だろう。これを知ることで警戒心が研ぎ澄まされる。

「瞳の景色」事件からすれば、そんな精度の良い写真は必要ないのだ。

 

実は、報道によると、写真に写った手から、指紋まで読み取れるというから、驚きだ。この事実を知ると知らないとで、写真に写るポーズまで違ってくるだろう。ニコニコ、ピースポーズを取っている場合ではない。その人差し指に指紋まで読み取られてしまう可能性があるからだ。そう言えば、友人が持っていた最新のスマホには三つもレンズが付いていたことを思い出す。あれは解像度がよすぎるのかもしれない。

 

新聞に出ていたSNS利用の注意点には具体的なことが記されている。

 

・氏名や住所を不用意に明かさない

・生活圏が特定される文章を載せない

・撮影の時にはGPS機能を切る

・窓ガラスなどの映り込みに気をつける

・画質を下げる

 

などだ。

 

ああ〜、やっぱり面倒臭い。とても私のような高齢者には無理だ。

4 そうは言ってもやはり逃げられない

SNSはやらないから良いのだ、とも言い切れない。

 

世の中、「クッキー」という単語を知っている人は多い。これは、普通、あの甘いビスケットのようなお菓子のことだ。しかし、インターネット上では「Cookie(クッキー)」という単語であり、お菓子のことではない。

 

総務省の用語解説によれば、以下の通りだ。

 

「ホームページを閲覧した際に、Webサーバが利用者のコンピュータに保存する管理用のファイルのこと。 利用者の登録情報や今までのショッピングカートの内容などを利用者のコンピュータに保存しておくことで、次回その利用者が同じWebサイトを訪問した場合に、それらのデータを利用できるようにする仕組みです。 たとえば、Cookieを利用すると、ログイン情報を保管することもできるため、次回利用するときにログイン処理を省略できるようになるといった利点があります。」
国民のための情報セキュリティサイト-用語辞典

 

簡単にいうと、ウエブサイトの閲覧履歴のデータであり、例の「リクナビ」事件で、勝手に学生の内定辞退率の分析情報が企業に提供されたという、元になったファイルである。

これと、利用者の特定情報(ID)が結びつけば、誰がどのウエブサイトを繰り返し見ていて、どんな趣味や傾向のある人かが分析できる。

 

私は、インターネットでは、すぐ読みたい書籍などやマイルのポイントで買えるカバンなどしか注文したことがない。だから、「あなたと同じ本を買った人はこういう本も見ています」とか、よく送られてくる。しかし、ある時、女房殿に頼まれて、化粧品の注文をしたら、何度となく、「あなたにぴったりの化粧品」という宣伝メールが繰り返し届くようになった。どしどし削除しているが、なんとなく気持ち悪い。

 

これがたぶん「クッキー」の機能なのだ。うるさいヤツめ。と思う反面、逃げられない。

 

ごく最近、政府は、このクッキーを利用して個人が特定できる場合には、利用者の同意を取ることを提供者に義務付ける方針を明らかにした。個人情報保護の観点から、ということだ。

 

「提供元では個人情報とは見なされていないクッキー情報でも、提供先で個人情報とひもづけられることが明らかな場合は、提供の際に本人への説明や同意が必要だというルールを明確化する」(2019年11月30日朝日新聞)ということだ。

 

しかし、たぶん、こうした規制も、最初のあの長たらしい、誰も読む気にならない文章で、最後に「これに同意ボタンを押さないと次の画面には行けません」と書かれているインターネット画面の圧力に誰もが負けてしまい、「ぽちっ」と押してしまって、結局「あなたは同意したのだ」とされてしまうのではないだろうか。

 

全くややこしい社会に入っている。そのことは間違いないようだ。

 

弁護士:和田光弘