2019.10.5
入管法改正 in 2019~外国人材受入れ政策の大転換~
2019 年の入管法改正で、何が変わったの!?
2019年4月1日、入管法[1]が改正されました。
皆さんも「入管法改正」や「特定技能」制度について、ニュースや新聞で見聞きしていることと思います。
しかし、「結局、今回の入管法改正で、何が変わったの?」と疑問を持っている方も多いのではないでしょうか。
ずばり!ひと言で言えば、今回の入管法改正は、日本社会の一大転換点と言うことができます。
新たな外国人材の受入れに関する在留資格「特定技能」の創設
今まで、我が国では、外国人単純労働者は受け入れないという政策を採用してきました。
改正前の入管法の場合、日本で働きたいと考えていた外国人材が取得していた在留資格は、主に「高度専門職1号[2]・2号[3]」や「技術・人文知識・国際業務[4]」などで、いずれもその外国人材が有している専門性を活かした仕事に就くことが想定されていました。
今回、改正入管法で新しく設けられた在留資格「特定技能」は、深刻な人手不足が予想される14の特定産業分野において、一定の専門性・技能を有し、即戦力となる外国人材を受け入れる制度とされています。
つまり、一定の専門性と生活や業務に必要な日本語能力を要求しているものの、学歴などは要件になっておらず、いわゆる現場の仕事に就くことを想定したものです。
そして、政府は、「特定技能」の受入れ人数を2019年度からの5年間で最大約34万人を見込んでいます[5]。
我が国の在留外国人数は、2014年まColumn法務情報 入管法改正 in 2019~外国人材受入れ政策の大転換~新たな構成員を迎えるにあたって、自らの意識も変えていく必要があります。
様々な国の人が日本社会に来てくれることは、企業だけではなく、日本社会にとっても非常に良いことです。
外国人材を単なる「労働力」としてではなく、日本社会の「生活者」として受け入れていくことが、「多文化共生社会」の実現のために必要であり、私は、そのお手伝いをしていきたいと考えています。
では約200万人程度であったものの、それ以降、「技能実習」、「技能・人文知識・国際業務」、「留学」などの資格で滞在する外国人の増加に伴い、2018年6月末の在留外国人は、約260万人となっています[6]。
この増加傾向は引き続き継続するものと考えられますし、それに加えて、「特定技能」という新たな在留資格を設け、多数の受入れを予定しているのです。
さらに、2019年5月30日には、日本国内の大学・大学院を卒業した外国人材が、円滑な日本語での意思疎通が求められる飲食業や製造業などの現場で働くことを希望する場合は、「特定活動[7]」による在留も認められるようになります。
このように、政府は、近時、外国人材の受入れ・共生のための取組を推進していく姿勢を明確にしています[8]。
「外国人材×法務」の必要性
今回の入管法改正に伴い大きな変化が予想されますが、特に、企業は、早急に対応を取る必要があります。
まずは、すでに外国人材を活用している企業について、違法行為を未然に防ぐという観点からのコンプライアンスの整備が必要になります。
技能実習法[9]に関してではありますが、法務省が公表している行政処分は以下のとおりであり、2018年末から運用が厳格になっており、かつ、2019年1月には東証1部上場企業も処分の対象となっています[10]。
次に、外国人材に関するコンプライアンスの整備は、企業の成長・飛躍のためには不可欠であるという点も重要です。
今後、企業は、①外国人材を受け入れることにより、組織の多様性を高め、成長・飛躍の原動力にすることができる企業と②既存の思考・体制に固執し、さらなる成長・飛躍が望めない企業のいずれかに分かれていくのではないでしょうか。
もし、皆さんが、今後の成長・飛躍を望むのであれば、外国人材が働きやすい環境を整え、組織の多様性を高めていくことが必要です。
そして、外国人材に関わるコンプライアンスを適切に整備するためには、「外国人材×法務」の専門家の存在も欠かせません[11]。
「多文化共生社会」の実現に向けて
最後に、日本社会の構成員である私たちは、新たな構成員を迎えるにあたって、自らの意識も変えていく必要があります。
様々な国の人が日本社会に来てくれることは、企業だけではなく、日本社会にとっても非常に良いことです。
外国人材を単なる「労働力」としてではなく、日本社会の「生活者」として受け入れていくことが、「多文化共生社会」の実現のために必要であり、私は、そのお手伝いをしていきたいと考えています。
※注釈※
- [1]出入国管理及び難民認定法
- [2]「高度の専門的な能力を有する人材として法務省令で定める基準に適合する者が行う次のイからハまで(イからハまで省略)のいずれかに該当する活動であって、我が国の学術研究または経済の発展に寄与することが見込まれるもの」
- [3]「1号に掲げる活動を行った者であって、その在留が我が国の利益に資するものとして法務省令で定める基準に適合するものが行う次に掲げる活動(以下省略)」
- [4]「本邦の公私の機関との契約に基づいて行う理学、工学その他の自然科学の分野若しくは法律学、経済学、社会学その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務又は外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動(以下省略)」
- [5]「新たな外国人材の受入れについて」<http://www.moj.go.jp/content/001291692.pdf>
- [6]「平成30年6月末現在における在留外国人数について(速報値)」<http://www.moj.go.jp/content/001269620>
- [7]「法務大臣が個々の外国人について次のイからニまでのいずれかに該当するものとして特に指定する活動(イからニまで省略)」
- [8]「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」<https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gaikokujinzai/kaigi/dai3/siryou3-2.pdf>
- [9]外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律
- [10]「行政処分等」<http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri07_00138.html>
- [11]たしかに、入管申請取次は行政書士、企業法務は弁護士、労務は社会保険労務士などといったように各分野の専門家は存在しています。しかし、入管、企業法務、労務について、それぞれの専門家に任せるのはリスクが大きいと言わざるを得ません。外国人材の受入体制の構築については、企業法務の観点から外国人材に対する法務を総合的に提供することができる弁護士に相談する必要があります。
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2019年7月5日号(vol.234)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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