2023.8.9
Twitter上のツイート削除請求に関する最高裁判断(弁護士:長谷川伸樹)
ツイート削除請求に関する最高裁の判断がなされました
令和4年6月24日付けの最高裁判所第二小法廷判決(以下「本判決」といいます。)において、SNSサイト『Twitter』(以下、単に「Twitter」と記載します。)上で自身が逮捕された事実を取り上げるツイートの削除に関する判断がなされました。
結論としては、問題となったツイートの削除を認める判断がなされたものとなります。
類似の裁判例としては、検索エンジン『Google』(以下、単に「Google」といいます。)における検索結果の削除請求を求めた平成29年1月31日付け最高裁判所第三小法廷決定(以下「平成29年決定」といいます。)がありますが、こちらにおいては検索結果の削除請求を認めない旨の判断がなされています。
Googleの検索結果の削除は認めなかった最高裁判所が、本件ではどのような判断からTwitter上の投稿削除を認めることとなったのでしょうか。
事実の概要
本判決の基礎となる事実関係は以下のとおりです。
・原告X(控訴審では被控訴人、上告審では上告人、以下「X」といいます。)は、平成24年4月に旅館の女性用浴場に侵入したとの疑いで逮捕され逮捕当日に同事実が複数の報道機関にてWeb報道されました(以下「本件各報道記事」といいます。なお、第1審提起の時点において、同報道記事はすべて削除されています)。
・同日、本件各報道記事の一部を引用し、同報道記事のリンクが設定されたTwitter上の投稿が複数投稿されました(以下「本件各ツイート」といいます)。
・X は、逮捕当時の勤務先を退職し、親族の事業を手伝い生活をしている。また、Xは逮捕後婚姻したものの、配偶者に対して逮捕事実を伝えていませんでした。
・平成30年時点においても本件各ツイートが残存していたため、同年、Xは、Twitter社(控訴審では控訴人、上告審では被上告人、以下「Y」といいます。)を被告として本件各ツイートの削除を求める訴訟の提起をしました。
・第1審東京地方裁判所は、Xの削除請求を認容したものの、第2審東京高等裁判所はXの請求を棄却したため、Xは最高裁判所に上告した。
本判決判断基準と考慮した事情
⑴ 最高裁判所の判断の概要は以下のとおりです。
XがYに対し、人格権に基づき、本件各ツイートの削除を求めることができるか否かは、①Xの本件事実を公表されない法的利益と②本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に関する諸事情を比較し、①が優越する場合には、本件各ツイートの削除を求めることができるとの判断基準を示したうえで、以下の事情を踏まえ①が優越すると認めるのが相当と判断しています。
⑵ 判決で考慮されている事実関係、その評価は以下のとおりです。
ア Xの逮捕事実の性質
・他人にみだりに知られたくないXのプライバシーに属する事実。
・不特定多数の者が利用する場所における軽微とはいえない犯罪事実に関するものであり、犯行当時は公共の利害に関する事実。
イ 社会的意義の変化
・既に逮捕から長期間が経過し、Xが受けた刑の言渡しは効力を失い、報道記事自体は削除されていることも踏まえれば、公共の利害の関わりは小さくなってきている。
・本件各ツイートが今でも特に注目を集めているとはいえない。
ウ 本件各ツイートの投稿の目的
・逮捕当日に投稿され、本件各報道記事の一部を転載しているため、速報の目的でなされたもので、長期間にわたって閲覧され続けることを想定したものとはいえない。
エ Xが被る具体的被害の程度
・Xの氏名を条件としてTwitter上の投稿を検索すると本件各ツイートが表示されるため、Xと面識のある者に過去の逮捕事実が伝達される危険が小さいとはいえない。
オ Xの社会的地位
・公的立場にある者ではない。
平成29年決定との差異
平成29年決定は、児童買春に関するGoogleの検索結果削除に関する訴訟であり、最高裁は、①が②に優越することが「明らかな」場合に削除を認めるとの基準を示しています。
本判決の前の東京高裁判決においては、上記の明確性を要求し、Xの請求を棄却しています。
もっとも、本判決では①の優越が「明らかな」場合という限定まではなされていません。
検索エンジンとSNS サイトの社会的意義の違いなのか、犯罪事実の公共の利益の関わりの程度の違いを基準としているのか、判断基準が異なることとなった原因は明らかではありません。
また、本判決において明確性を要求した場合、結論が異なったのかという点も明らかではありません。
そのため、本判決がどのような事案で用いられるべきものなのか、今後の紛争解決のためどのような意義を有するかは今後の事案の集積を待ち判断することとなります。
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2023年6月5日号(vol.281)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。