遺言は遺留分に細心の注意を!(弁護士:今井 慶貴)

※この記事は、株式会社東京商工リサーチ発行の情報誌「TSR情報」で、当事務所の企業法務チームの責任者 弁護士今井慶貴が2017年4月より月に一度連載しているコラム「弁護士今井慶貴のズバッと法談」の引用したものです。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 今井 慶貴

今井 慶貴
(いまい やすたか)

一新総合法律事務所
副理事長/新潟事務所長/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:早稲田大学法学部

新潟県弁護士会副会長(平成22年度)、新潟市包括外部監査人(令和2~4年度)を歴任。
主な取扱分野は、企業法務(労務、契約、会社法務、コンプライアンス、事業承継、M&A、債権回収など)、事業再生・倒産、自治体法務です。
現在、東京商工リサーチ新潟県版で「ズバッと法談」を連載中です。

第64回のテーマ

この“ズバッと法談”は、弁護士今井慶貴の独断に基づきズバッと法律関連の話をするコラムです。

気楽に楽しんでいただければ幸いです。

今回のテーマは、遺言は遺留分に細心の注意を!です。

その1.遺留分を侵害する遺言は危うい!

遺留分(いりゅうぶん)という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

遺留分というのは、遺言によっても奪うことのできない遺産の一定割合の留保分のことで、兄弟姉妹を除く配偶者、子、直系尊属に認められているものです。

本来、自分が亡くなった場合の財産の行方については、遺言で自由に定めることができるわけですが、遺された者の生活保障や潜在的持分の清算という観点から一定の制約をかけた制度です。

もちろん、遺留分を侵害された相続人が「別にそんなものはいらないよ!」ということであれば、問題はありませんが、「なんか納得がいかない!」となると、余分に遺産をもらった者(遺贈や贈与を受けた者)に対し、「遺留分を侵害した分をよこせ!」という権利を行使することができます。

従来、遺留分減殺(げんさい)請求権といわれたものですが、法改正により令和元年7月1日以降の相続については、遺留分侵害額請求権という権利に変わりました。

従来は、遺留分減殺請求権の行使によって遺贈又は贈与の一部が無効となる結果、いったん遺産の共有状態となりました。

そのうえで、受遺者又は受贈者は、現物の返還に代えて目的財産の価額で弁償することができました。

しかし、改正後は、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求できる権利に変わりました。

請求を受けた受遺者又は受贈者が金銭を直ちには準備できない場合には、裁判所に全部又は一部の支払につき相当の期限の許与を求めることができます。

とはいえ、このような制度だと、お金に換えることが難しい同族会社の株式や不動産のような財産をもらった相続人は大変困ることになります。

その2.どんな遺言書を作ればよいか?

遺産の評価額を意識して、遺留分を侵害しないような遺言を作成することが基本です。

とはいえ、遺留分を侵害するような遺言を作らざるを得ないケースもあろうかと思います。

その場合、財産を取得させたい相続人に「相続させる」という特定財産承継遺言ではなく、「遺贈する」という特定遺贈の形にすることが対策として考えられます。

特定遺贈の場合は、個々の財産について承認と放棄の選択ができるので、必要度の低い財産を放棄することができます。 ほかにも考えられる方法はありますが、紙数が尽きたので、このくらいで。

最後に一言。

“終活”という言葉がすっかり定着して、遺言書を作る人も増えましたが、せっかく作るのであれば、次のような残念な遺言にならないようにくれぐれも気をつけましょう。

遺留分 無視して 争い遺された。


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