2022.4.14
休職期間満了による退職扱いが違法とされた事例~京都地裁令和3年8月6日判決(労働判例1252号33 頁)~弁護士:五十嵐 亮
事案の概要
当事者
原告(X)は、平成16年4月にY社に入社し、店舗において売上のコンピューター入力、売上伝票作成等の業務を行っていた。
被告(Y社)は、京都市内において鮮魚等の卸売業を展開する有限会社である。
休職に至るまでの経緯
Xの同僚であるAは、かねてからパート従業員であるBや取引先の担当者から無視されているように感じていた。
平成29年9月26日、Bと取引先の担当者がAについて会話しているところを偶然見聞きしたところ、Aは悪口を言われていると感じ、これまで我慢していた口惜しさがこみ上げて涙が止まらなくなり、そのまま事務所を出ていった。
Aは一度事務所に戻ろうとしたが、Xから「戻らなくていい」と言われ、そのまま早退した。
Aは9月26日の帰宅後から体調不良となり、その後欠勤し、9月29日付で適応障害と診断され、以降休職となった。
Xは、社長に対し、9月29日、AとBの折り合いが悪いことから、Bを退職させて職場環境を改善してほしいと要請した。
Xは、10月5日、社長から呼び出され、退職勧奨を受け、応じなければ解雇する旨伝えられた。
Xが労働組合に相談したため、退職勧奨は撤回されたが、Xは、他の従業員から無視されたり、「会社にどれだけ迷惑をかけたと思っているんだ、迷惑をかけたら謝るのが普通ではないか」などと苦言を呈されるようになり、このような状況を受けて、Xも体調を崩すようになった。
Xは、10月26日、「適応障害」の傷病により3か月の自宅療養が必要と診断され、11月2日より、休職となった。
退職扱いに至る経緯
Xが会社に提出した平成30年1月17日付、4月16日付、7月17日付の各診断書には、いずれも傷病名「適応障害」、「不眠継続、不安・意欲の低下、抑うつ気分、依然として勤務不能、3か月の自宅療養が必要」と記載されていた。
平成30年11月30日、XはY社に対し「平成31年1月1日より前職への復帰には何ら問題がないと考えられます。しかしながら、復職に関しては、時間外労働や急激な労働による精神的・肉体的負担にならないように配慮することが必要になる。」との内容の診断書を提出し、1月16日からの復職を要望した。
これを受け、Y社は、1月16日からの復職を拒否し、全てのカルテ及び附属書類一切の提出を求めた。
Xは、カルテに代わるものとして「職場復帰支援に関する情報提供書(復帰診断書)」を主治医から作成してもらい、Y社に提出すると同時に、主治医に対し病状照会するよう申し入れた。
同時にY社指定の医師の診察を受けることも提案した。
Y社は、Y社就業規則21条1項によれば、復職の際には「会社の指定する医師の診断書または事由消滅に関する証明書を添付して書面で復職願を提出しなければならない」と規定されていたところ、Xによる対応が不十分であるとして、Xの復職を拒否すると同時に、平成30年8月2日付で9か月間の休職期間満了による退職扱いとなると主張した(以下「本件退職扱い」という)。
訴訟の内容
Xは、Y社に対し、本件退職扱いは無効であるとして、Xが復職を申し出た平成31年2月分以降の未払い賃金及び遅延損害金の請求等を求めて提訴したものである。
本件の争点
本件の争点は、本件退職扱いは有効か(復職拒否は認められるか)という点である。
裁判所の判断
結論
裁判所は、本件退職扱いを無効と判断した。
理由
・Y社の就業規則には、私傷病休職について休職期間及び休職期間満了時の退職扱いを定める規定がない
・Xは、医師の診断書によれば、平成30年1月16日の時点で復職が可能な程度に症状が改善していた
・Y社は、カルテ等一切の書類の提出を求めるが、Xは診断書の写しを提出するとともに、主治医に対する病状照会にも同意し、「職場復帰支援に関する情報提供書」も提出し、Y社指定の医師の診察を受けることも提案しているのであって、Y社は主治医に対する照会も指定医の診察も受けさせることなく復職拒否の判断をしている
本件のポイント
本件は、復職の判断に際し、Xが、主治医の診断書、「職場復帰支援に関する情報提供書」を提出し、主治医への意見照会や会社指定医の受診にも同意しているにもかかわらず、Y社側がカルテの一切の開示に固執したものです。
裁判所は、このような状況で、主治医への意見照会もせず、指定医への診察も受けさせることなく退職扱いの判断をしたことについて無効としており、結論としては妥当であると考えられます。
実際の復職の判断の場面においては、会社側としてどのような資料の提出を求めるべきか判断に迷う場合もあると思われますので、是非事前にご相談ください。
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2022年2月5日号(vol.265)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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