2020.4.13
新型コロナウイルス感染拡大により重大な影響を受けている事業者の皆様へ⑤『ネット中傷への対応方法(令和2年4月13日現在)』(弁護士:中澤亮一)
1 はじめに
新型コロナウイルスの感染拡大が続いておりますが、それに伴って、デマや不確実な情報が拡散するという事態が発生しております。
また、なかには、「新型コロナウイルス感染者が店舗を利用した」というデマをSNS上に流され、企業が風評被害を受けたというケースや、院内感染の発表を行った医療機関の従業員が、嫌がらせや誹謗中傷を受けたというケースもあるようです。
SNSに限らず、従来からある掲示板サイトでも同様の被害が発生しています。
そのようなネット上での風評被害や誹謗中傷は、放置しておくとさらに拡散され、企業活動に重大な影響を及ぼす可能性も否定できません。
そこで、それら誹謗中傷への対処法として、いくつかの方法をご紹介いたします。
2 刑事的方法
⑴ 最も迅速かつ強力な解決を図ることができる方法は、警察による捜査及び逮捕でしょう。
最近でも、飲食店名を挙げて「新型コロナ」などと書き込みを行った会社役員の男が、偽計業務妨害の疑いで実際に逮捕されたという報道がありました。
『飲食店名挙げ「コロナ」と書き込み 業務妨害容疑で逮捕』
新型コロナウイルス感染者がいるかのような虚偽の情報を流し、山形県米沢市の飲食店の業務を妨害したとして、山形県警は10日、市内のインターネット関連会社役員の男(36)を偽計業務妨害の疑いで逮捕し、発表した。認否は明らかにしていない。
一般的に警察は、残念なことに、「民事不介入」などといった態度で十分な捜査を行ってくれないことがままあるのですが、この報道をみると、書き込みがなされてから一カ月強の期間で逮捕に至っています。
コロナウイルス関係の業務妨害的書き込みに対しては、被害届の提出により迅速な解決がなされる可能性が高まったといえるでしょう。
⑵ ただし、書き込みがなされたサイトやSNSが、海外の事業者が提供するサービスである場合は、被害届を提出しても捜査が進まない可能性があるとのことです。
というのも、日本の警察は、海外の事業者に対しては直接の捜査権限を有していないのですが、海外で上記サービスを提供している事業者は、日本の警察に対して非協力的な態度をとることがよくあり、捜査が難航することがあるということなのです。
このような場合には、以下の民事的方法と組み合わせて、弁護士に以下の「発信者情報開示請求」を依頼して書込者のIPアドレスを特定し、書込者が国内プロバイダを利用している場合には、その結果と合わせて被害届を提出するということも一つの手段かもしれません。
3 民事的方法
民事的な方法とは、弁護士を代理人として当該サイト等と交渉したり、裁判手続きを使用したりして、当該書込の削除や書込者の氏名等の情報の開示を求めることです。
以下にご説明する通り、発信者情報開示請求は時間がかかってしまうことが多いため、迅速な対応としては書込の削除を求めることのほうが適切と思われます。
⑴ 削除請求
ア 任意の削除依頼
民事的方法の中で、最も手軽かつ迅速な方法としては、当該サイトの管理者等に対して削除依頼をすることです。
多くは掲示板サイトに削除依頼専用の依頼フォームが設けられています。
ただし、単にフォームから依頼を送ればそれでいいかというと、そうではありません。
①氏名
②連絡先(メールアドレス等)
③削除対象のURL等及び問題箇所の具体的指摘
④削除を求める理由
⑤生じた被害の程度
は、最低限記載が必要です。
当該サイトに依頼内容の指示がある場合にはそれに従ってください。
イ テレコムサービス協会の書式による削除依頼
テレコムサービス協会とは、インターネットサービスプロバイダ(ISP)や回線事業者等を会員としている一般社団法人であり、プロバイダ責任制限法関連のガイドラインを公表しています。
同協会が公表している書式を使って削除を求めることもできますので、削除フォームによる依頼に応じない場合はこの方法を検討してください。
この場合は、「侵害情報の通知書兼送信防止措置依頼書」という書面を作成し、当該サイト管理者等に郵送で送ることになります。
書式は「プロバイダ責任制限法 関連情報WEBサイト」というサイトから、記入例付きでダウンロードすることができます。
ウ 裁判手続
上記の書式を使った送信防止措置依頼をしても削除に応じない場合には、法的手段として削除仮処分を検討します。
仮処分とは、裁判の一種ではあるものの、通常裁判よりも迅速な手続により審理を行い、一定額の担保金の供託を条件として暫定的な措置を行うものです。
仮の処分ではありますが、一度削除されればその後に書き込みが元に戻るということはありません。
担保金の額は事案によりますが、30万円程度を求められることが多いようです。時間と費用は掛かるものの、裁判手続ですので強力な手段です。
仮処分決定を得るには、どの書き込みがどのように権利(人格権、著作権等)を侵害しているのか、すぐに削除されなければ権利回復が困難になるといった事情があるか(保全の必要性)、書き込みが違法ではないといいうる事情がないか(違法性阻却事由の不存在)等を主張する必要があります。
裁判手続では法的な知識が求められますので、この手段をとる場合には弁護士に依頼することをお勧めします。
⑵ 発信者情報開示請求
ア 大まかな流れ
書き込みをした者の情報を開示するように求める方法です。
有効な手段ではありますが、手続きが複雑で時間と費用が掛かるため、迅速な対応が求められるコロナウイルス関係の書き込みに対する方法としては、適切とはいえない可能性もあります。
上記の通り、IPアドレスの開示を求めるところ(下記②)まで進め、成功したら警察への被害届提出と組み合わせて対応する方法がよいかもしれません。
具体的には、①証拠保存→②コンテンツプロバイダへIPアドレス等の開示請求(任意の請求、若しくは仮処分)→③ログの保存請求→④ISPへ契約者情報の開示請求訴訟という方法を順にとっていきます。
イ ①証拠保存から②コンテンツプロバイダへの請求まで
今後裁判等の手段をとる場合に備えて、当該書き込みおよびその関連情報を証拠として保存しておきます。
スクリーンショットや紙への印刷で構いませんが、当該サイトのURL全体が明確に分かるようにしてください。
証拠を保存したら、まずは当該サイトの管理者等に対してIPアドレス、通信日時等の開示を求めます。
この段階では任意開示に応じるサイトも多いので、上記テレコムサービス協会の書式を用いて請求します。
応じない場合には仮処分を検討します。
ウ ③ログ保存請求及び④ISPへの開示請求
IPアドレスの開示を受けたら、「Whois」というサイトを使ってどのISPなのかを検索することができます。
ISPが明らかになったら、発信者情報開示請求訴訟を提起します。
ISPとしては自分の契約者の個人情報を開示することになるわけですから、任意開示にはほとんど応じてくれず、そのため訴訟を提起する必要があります。
ここで重要なのは、ISPのログ(通信記録)は一定の期間(早いと三ヶ月程度)が経過すると削除されてしまうため、訴訟提起に先立ってログの保存請求をしておく必要があるということです。
直接ISPに対して任意保存を求めるか、仮処分申立をしておく必要があります。
ISP側も訴訟では開示を争ってきます。
法的な主張を尽くす必要がありますので、訴訟対応は弁護士への依頼をお勧めします。
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