2020.3.5
パワハラの有無について第一審と第二審の判断が分かれた事例 ~名古屋高裁 平成30年9月13日判決~
事案の概要
Y法人の概要
被告となったY法人は、美術館等を管理運営する公益財団法人である。
紛争に至る経緯及びXの請求内容
原告Xは、平成27年4月よりY法人に正職員として雇用され、美術館の学芸員として勤務した。
Xは、Y法人に対し、平成27年11月20日、退職届を提出した。
退職理由として、「A館長、B及びCから、不当な退職勧奨、数々の嫌がらせ、始末書の作成強要、その他職場のパワハラを受け続けたため、急性気管支炎及び咳喘息に罹患し、休職を余儀なくされたところ、今後も、現在の本件美術館での職場環境の下では、勤務継続が不可能又は著しく困難と判断されるため」と記載されていた。
そこで、Xは、Y法人、A館長、B及びCに対して、連帯して、慰謝料、治療費等として約200万円の支払いを求めて提訴したものである。
問題となった言動
①平成27年10月14日の言動
10月13日(休館日)に恩師の訃報に接したXが、お通夜と葬儀へ参列したい旨伝えようとしてBの携帯電話に連絡したがつながらなかったため、Y法人のメールアドレス宛に有給休暇を申請するメールを送信したことに対して、「社会人としてどうなのかな」、「無断欠勤」、「信頼関係ゼロ」、「正直Xと働いていくのが難しい」などと述べた。
②平成27年10月16日の言動
Xが指示された作業(美術館の催事予定表 の作成)が間に合わないまま予定通りに有給 休暇を取得したことに対して、Cが「非常識」、 「ちゃんとできていないのに有休取っちゃうっていうのは、あり得ない」、「センスが信じられ ず信頼を失った」などと述べた。
③平成27年10月17日の言動
XがBに対し、館内の見回り表の点検リスト を期限内に提出したものの、点検リストがノートに貼り付けされていなかったことに対して、 「美術館の職員としてふさわしくない」、「任せられる仕事はない」、「あなたにふさわしい仕 事はここ以外の場所にある」などと述べた。
④平成27年10月30日の言動
A館長が、Xと面談を行い、「Xの性格では任 せられる仕事はなく、性格を変えられないのであれば、辞表を書いて退職することを求める」、 「ここの美術館ではいらない人」などと述べた。
裁判所の判断
第一審(名古屋地裁)の判断
第一審の名古屋地裁は、前記の①~④の言動について 、主に以下の2つの理由を挙げて、不法行為に該当しないとして、Xの慰謝料請求を棄却した。
●声を荒げたり高飛車に出ているわけでもなく、ゆっくりと間合いを取りながら淡々と話している様子がうかがわれること
●Xの勤務ぶりについては社会人として責任感にやや欠けるものとして注意されても致し方ないこと
第二審(名古屋高裁)の判断
反対に、第二審の名古屋高裁は、前記の①~④の言動をいずれも「職場からの排除を示唆されたと感じるものであり、退職勧奨の趣旨を含むもの」であると認定した上で、このような退職勧奨と受け取れる言動を採用間もないXに対して行うことは、違法であると判断した。
結論として、Y法人、A館長、B及びCに対し、慰謝料60万円及び弁護士費用6万円の合計66万円を連帯して支払うことを命じた。
治療費については、①~④の言動とXの受診について相当因果関係がないとして否定した。
本件のポイント
第一審と第二審の判断が分かれた点
判決文を検討すると、第一審は、個々の行為を取り出して検討し、パワハラには当たらないとの結論を出しているのに対し、第二審は 、半月ほどの期間に集中して①~④の言動が行われたことに着目し、①~④の言動を一連の行為として違法であると認定しています。
また、第一審判決は、Xの勤務ぶりについて「責任感にやや欠ける」と評価したのに対し、第二審判決は、退職勧奨を示唆する言動をされるほどに強い非難に値するものではないとしています。
第二審における慰謝料算定の根拠
名古屋高裁は、慰謝料額の根拠について、「諸般の事情を総合考慮する」としか述べておらず、根拠が不明確ではありますが、パワハラについて慰謝料を認めた裁判例の中では、低い方ではないかと思います。
治療費については、被告らの言動とは因果関係がないと判断されていますが、名古屋高裁としては 、①~④の言動は 、違法ではあるが 、精神障害を発症させるほど悪質なものではないという考えがあったのではないかと推測されます。
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2019年12月5日号(vol.239)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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