2018.8.31
障害者雇用数の水増し問題ー障害者雇用について解説しますー(弁護士:五十嵐亮)
中央省庁が雇用する障害者数を水増ししていた問題が、話題になっています。
報道では、省庁の8割が不正ともいわれています。
障害者雇用は、働き方改革実行計画のテーマの一つであり、政府としても重要施策として制度改正を進めているものですが、今回の不正が発覚したことで、「中央官庁は自分たちでも守れないことを民間に求めていたのか」という声も上がっています。
そこで、今回は、障害者雇用についてみていきたいと思います。
障害者雇用率制度
障害者雇用率制度とは、従業員の一定割合(=法定雇用率)以上の障害者を雇用することが義務付けられる制度です。
法定雇用率は、従前2%とされていましたが、平成30年4月1日以降は、2.2%に引き上げられています。
従前は、2%でしたので、労働者50人以上の企業につき対象とされていましたが(49人の場合、49人の2%は1人に満たないので雇用義務なし)、法定雇用率が2.2%とされたことにより対象となる企業の範囲が、43.5人以上の企業に拡大されることになっています。
また、平成30年4月1日からは、法定雇用率の算定基礎に、身体障害者、知的障害者に加え、「精神障害者」も含まれることになっています。
障害者雇用率制度における「障害者」とは?
冒頭でも述べましたように、雇用する障害者数の水増しが問題となっているわけですが、障害者雇用率制度における「障害者」の定義について確認したいと思います。
障害者の定義については、障害者雇用促進法2条等に定めがあります。
障害者雇用率制度の、「障害者」は、「身体障害者」、「知的障害者」、「精神障害者」に分類されます。
具体的には、以下のとおりです。
身体障害者…障害者雇用促法別表(※1)に規定された障害がある者
知的障害…知的障害者更生相談所等により知的障害があると判定された者
精神障害者…精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている者
障害者雇用率の算定の仕方は?
障害者雇用率の算定の仕方は以下のとおりです。
障害者雇用率=身体障害者、知的障害者及び精神障害者である常用労働者の数+失業している身体障害者、知的障害者及び精神障害者の数/常用労働者+失業者
障害者の数は、週所定労働時間20時間以上30時間未満の者を0.5人、30時間以上の者を1人とカウントします。
重度の障害者の場合には、週所定労働時間20時間以上30時間未満の者を1人、30時間以上の者を2人とカウントします。
障害者雇用納付金制度
障害者雇用納付金制度は、障害者雇用に関する企業の社会連帯責任の履行を確保するため、法定雇用率を満たしていない企業から納付金を徴収する一方で、障害者を多く雇用している事業主に対して、調整金、報奨金や、各種の助成金を支給する制度です。
納付金の徴収は常用労働者100人超の企業に限られています。
納付金は、不足1人当たり月額5万円(常用労働者が100.5人~200人の企業については不足1人当たり月額4万円)となります。
障害者雇用の現状
「平成29年障害者雇用状況の集計結果」によると、民間企業(50人以上の規模の企業)に雇用されている障害者の総数は、合計49万5795人で、14年連続で過去最高となっています。
障害者の内訳としては、身体障害者が33万3454人(前年比1.8%増)、知的障害者が11万2293人(前年比7.2%)、精神障害者が5万0047人(前年比19.1%増)でした。
この統計からは、精神障害者の「伸び率」が顕著であることがわかります。
障害者の類型ごとの特徴
独立行政法人高齢・障害・求人者雇用支援機構「障害者の就業状況等に関する調査研究」(2017年)によれば、障害者の一般企業への就業後1年時点での定着率は、身体障害者が60.8%、知的障害者が68%であるのに対し、精神障害者は49.3%とされています。
一般に、精神障害者は、「体調に波がある」、「心身が疲れやすい」、「能力はあるがコミュニケーションに苦手な部分がある」等の特徴があるとされています。
障害者に対する合理的配慮義務
障害者雇用促進法36条の3によれば、企業は、雇用した障害者に対し、企業にとって過重な負担にならない範囲で、「障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を講じなければならない。」(合理的配慮義務)とされています。
例えば、視覚障害のある者に対し、点字や音声などで採用試験を行ったり、知的障害がある者に対して、図などを活用したわかりやすい業務マニュアルを作成したり、内容を明確にして一つ一つ丁寧に作業手順をわかりやすく示したり、精神障害がある者に対し、出退勤時刻・休暇など通院・体調に配慮することなどがあげられます。
前述のように、障害者(特に精神障害者)の定着率は、あまり高くないという統計もあります。
障害者については、業務能力不良等を理由とした解雇トラブルが発生することがあり、少なからず裁判例が出されています。
京都地裁平成28年3月29日判決は、アスペルガー症候群の労働者の事案で、一般的には問題のある行為であったとしても、障害者雇用促進法36条の3の合理的配慮義務を尽くさないで行われた解雇は違法、無効となると判断しており、労働者に対する解雇の場面では障害のある者とない者とでは解雇の適法性に関する判断基準が異なることを示しています。
(※1)障害者雇用促進法 別表
一 次に掲げる視覚障害で永続するもの
イ 両眼の視力(万国式試視力表によって測ったものをいい、屈折異状がある者については、矯正視力について測ったものをいう。以下同じ。)がそれ ぞれ0.1以下のもの
ロ 一眼の視力が0.02以下、他眼の視力が0.6以下のもの
ハ 両眼の視野がそれぞれ10度以内のもの
ニ 両眼による視野の2分の1以上が欠けているもの
二 次に掲げる聴覚又は平衡機能の障害で永続するもの
イ 両耳の聴力レベルがそれぞれ70デシベル以上のもの
ロ 一耳の聴力レベルが90デシベル以上、他耳の聴力レベルが50デシベル以上のもの
ハ 両耳による普通話声の最良の語音明瞭度が50パーセント以下のもの
ニ 平衡機能の著しい障害
三 次に掲げる音声機能、言語機能又はそしやく機能の障害
イ 音声機能、言語機能又はそしやく機能の喪失
ロ 音声機能、言語機能又はそしやく機能の著しい障害で、永続するもの
四 次に掲げる肢体不自由
イ 一上肢、一下肢又は体幹の機能の著しい障害で永続するもの
ロ 一上肢のおや指を指骨間関節以上で欠くもの又はひとさし指を含めて一上肢の二指以上をそれぞれ第一指骨間関節以上で欠くもの
ハ 一下肢をリスフラン関節以上で欠くもの
ニ 一上肢のおや指の機能の著しい障害又はひとさし指を含めて一上肢の三指以上の機能の著しい障害で、永続するもの
ホ 両下肢のすべての指を欠くもの
ヘ イからホまでに掲げるもののほか、その程度がイからホまでに掲げる障害の程度以上であると認められる障害 五 心臓、じん臓又は呼吸器の機能の障害その他政令で定める障害で、永続し、かつ、日常生活が著しい制限を受ける程度であると認められるもの