2018.6.28
平成28年3月31日東京地裁~退職後の競業禁止特約は制限の範囲と代償措置が重視される~(弁護士:五十嵐亮)
事案の概要
Aさんは、B社(東京都に本社を置く、金融商品取引業を営む大手証券会社)に勤務していたところ、Aさんは60歳を前に一身上の都合により退職しました。
B社は、就業規則に退職金加算制度を定め、「競業他社に転職しないこと」を誓約したことを条件に、退職加算金を支払うことにしていたところ、Aさんは、「競業他社に就職しない」ことを誓約した誓約書をB社に提出し、退職加算金1008万円を受領しました。
誓約書の内容は、次のような内容でした。
・Aが在職中に取得したB社(グループ各社も含む)の顧客に関する情報を退職日までに返還する
・退職後3か月間は退職前1年間に担当した顧客に対しB社の了承を得ることなく接触しないこと
・同業他社に転職した場合には、退職加算金を返還する
退職後Aさんは、競業ではない会社の顧問を1年8か月務めた後、競業となる証券会社に就職したため、B社がAさんに対し退職加算金全額の返還を求め提訴しました。
裁判所の判断
東京地裁は、この事案について、Aさんに対し、退職加算金全額の返還を命じる判決を言い渡しました。
理由として、次の事情があげられています。
・B社の退職金加算制度を利用するか否かは、従業員の自由意思に委ねられていること(制度を利用しなくても退職金の減額はされない)
・B社の退職金加算制度は、従業員に有利な選択肢を提供するものであるから、誓約書に転職の禁止期間や競業他社の地域等の限定が付されていないことを考慮しても、違法とまではいえない
ポイント
裁判例では、職業選択の自由との関係から、競業他社への転職を禁止(制限)する措置が適法であるためには、制限の範囲(制限される期間、地域、仕事の内容など)を最小限にしつつ、制限に対する代償措置があることが重視される傾向にあります。
本件では、制限の範囲に限定はありませんでしたが、競業禁止に対する代償措置(退職金の加算)があることが重視され、比較的広範な制限を認める結論に至ったものと思われます。
従業員につき、退職後の競業禁止を制度化する際の参考にしてください。
◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 五十嵐亮
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2017年8月5日号(vol.211)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。