2017.11.6
残業分が含まれている?いない?(弁護士今井慶貴)
- 「弁護士今井慶貴のズバッと法談」は、株式会社東京商工リサーチ発行の情報誌「TSR情報」で、当事務所の企業法務チームの責任者 弁護士 今井 慶貴 が2017年4月より月に一度連載しているコラムです。
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第6回のテーマ
- この“ズバッと法談”は、弁護士今井慶貴の独断に基づきズバッと法律関連の話をするコラムです。気楽に楽しんでいただければ幸いです。
今回のテーマは、「残業分は含まれている?いない?」です。
その1.勤務医の残業代
今年7月、最高裁が勤務医の残業代について出した判決は、少なからずインパクトがありました。
- 原告の40代男性医師は、約半年間、神奈川県の私立病院に勤務して解雇されました。1700万円の年俸契約で、午後5時半~午後9時に残業をしても時間外の割増賃金を上乗せしない規程だったところ、医師側はこの間の時間外労働約320時間の一部が未払いだと主張しました。
東京高裁は、医師の業務の特質、労務提供についての裁量性、給与が相当高額であったこと等から、労働者としての保護に欠けることはなく、午後9時までの割増賃金は、月額給与と当直手当に「含まれる」と判断しました。
しかし、最高裁は、割増賃金は月額給与等に「含まれない」と判断しました。- その論理はこうです。
労働基準法が割増賃金の支払いを義務づけているのは、時間外労働等を抑制し、労働時間のルールを遵守させるとともに、労働者への補償を行おうとする趣旨による。- 割増賃金を基本給や諸手当に予め含める形で支払ってもよい。
- 他方、法に定める割増賃金を支払ったかどうかを判断するためには、支払われた額が通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として法で定められた方法で算定した額を下回らないかを検討することになるところ、法の趣旨からして、労働契約における基本給等の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別できることが必要であり、不足があれば差額を支払う義務がある(従来からの判例)。
そして、本件で医師に支払われた年俸について、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできないから、割増賃金は含まれない。
その2.常識はあてになる?
- さて、皆さんはどういう感想を持たれたでしょうか?
- 最高裁は、医師の給与が高額であったことなど本件特有の事情を考慮しておらず、非常識な感じがするかもしれません。
ただ、「何時間働こうと年俸いくら」といった契約を認めると、割増賃金制度を設けた意味が乏しくなります。そして、時間外労働に沿った割増賃金を義務づける以上、「通常の労働時間の賃金」が分からなければ、あるべき割増賃金を算定しようがありません。
その意味で、最高裁判決は論理が通っています。
本件で、経営側は、「年俸1700万円のうち、通常の労働時間分がいくら、固定残業代何時間分がいくら、不足分は支払う」という制度にしておけばよかったのです。
最後に一言
昔のドラマの台詞をもじって…。
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「残業するなら金をくれ!」