2026.8.17

シフト制の労働者の休業について会社の帰責事由がないとされた事例~東京地裁令和6年3月26日判決(労働判例1346号31頁)~

事案の概要

当事者

被告(Y社)は、飲食店経営等を目的とする株式会社であり、ラーメンチェーン店を運営している。


原告ら(X1、X2)は、夫婦であり、平成29年3月にY社と労働契約を締結し、調理作業員として勤務していたものである。

Xらの労働条件

Xらの労働条件は以下のとおりである(本件契約)。

賃金時給940円
(※令和2年2月以降は時給1120円)
契約期間平成29年3月4日から30日間
(※その後期限の定めのない契約となった)
始業終業時刻1日の労働時間を8時間とし、別途シフト表を提出の上、個別に定める
業務内容ラーメン店の調理作業員

コロナ禍による休業

Xらは、本件契約締結当初は、A店に勤務していたが、平成29年6月からはB店に勤務するようになった。

B店では、原則として週6日、午前10時~午後6時(週に1回は午前10時~午後9時)のシフトに入っていた。


B店は、コロナ禍の影響を受け、令和2年3月から同年5月末まで休業し、同年6月1日に短縮営業にて再開したが、Xらは、B店のシフトに組み込まれることはなかった。


Y社は、Xらに対して、B店を含む複数店舗のシフトを打診したが、Xらは、勤務時間・日数が短すぎることや、自宅から店舗まで遠いこと等を理由にこれらの打診を断った。


令和2年6月30日、B店が閉店したため、Y社は、Xらに対し、C店の午前11時~午後3時、午後5時~午後10時までのシフトを打診したが、Xらはこの打診についても断った。

Xの請求内容

Xらは、令和2 年6月1日から令和3 年1月11日までY社の帰責事由によって就労できなかったとして、民法5 3 6 条2 項(※1)に基づく未払賃金等の支払いを請求し、また、予備的に、同期間について、労働基準法2 6 条(※2)に基づく休業手当等の支払いを請求して提訴したものである。

Information

※1 民法536条2項:債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
※2 労働基準法26条:使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

本件の争点

本件の争点は、令和2年6月1日から令和3年1月11日までのXらの不就労について、Y 社の帰責事由があるかという点である。

裁判所の判断

裁判所は、まず、本件契約は、勤務する店舗や日数、時間帯を特定することなく、「別途シフト表を提出の上、個別に定める」と定めるのみであることを踏まえれば、Xらの就労義務は、Y社がシフトを定めることによって、その内容が確定し、発生すると解され、Y社が一定日数あるいは一定時間数のシフトをXらに割り振る義務はないと判断した。


その上で、本件では、Y社はXらに対して、6月1日以降、シフトに組み込んでおらず、その後、複数店舗での勤務を打診したが、Xらは、総労働時間の少なさや店舗の立地等、様々な理由をあげて全て断ったのであるから、この間、Xらに就労義務は発生しておらず、そのことにつきY社の帰責事由があるとはいえないと判断した。


休業手当については、Xらに就労義務が発生していないことから、就労していないことを休業と解する前提を欠くと判断した。


裁判所は、結論として、原告らの未払賃金の請求及び休業手当の請求を棄却した。

本件のポイント

民法5 3 6 条2項によれば、休業について、債権者(会社)の帰責事由がある場合、賃金を全額請求できることになります。この請求が認められない場合でも労働基準法26条に基づく休業手当の支払いが認められる場合があります(労働基準法26条の方が適用範囲が広いと解釈されています)。


本件では、シフト制の労働者が休業した際に、賃金の支払いあるいは休業手当の支払いが認められるかという点が問題となりました。


過去の裁判例では、シフト制の労働者であっても、雇用契約において「週〇日程度」という記載がある事案において、賃金請求を認めた事例がありましたが、本件では、そのような定めがない事案において、Y 社がシフトを定めることによって、就労日数等の就労義務の内容が確定すると判断した点が特徴的です。


また、Y社が、Xらに対して、シフトの打診をしたがXらが断った等の事情により、賃金請求も休業手当の支払いも認めなかった点も特徴的であり、実務上の参考になるといえるでしょう。


<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2026年6月5日号(vol.316)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 五十嵐 亮

五十嵐 亮
(いからし りょう)

一新総合法律事務所
理事/弁護士

出身地:新潟県新潟市 
出身大学:同志社大学法科大学院修了
長岡警察署被害者支援連絡協議会会長(令和2年~)、長岡商工会議所経営支援専門員などを歴任しています。
主な取扱分野は企業法務全般(労務・労働・労災事件、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)、交通事故、離婚。 特に労務問題に精通し、数多くの企業でのハラスメント研修講師、また、社会保険労務士を対象とした労務問題解説セミナーの講師を務めた実績があります。
著書に、『労働災害の法律実務(共著)』(ぎょうせい)、『公務員の人員整理問題・阿賀野市分阿賀野市分限免職事件―東京高判平27.11.4』(労働法律旬報No.1889)があります。

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