2026.6.22
競業避止義務違反に対する違約金が1000万円の範囲で有効とされた事例~ 大阪高裁令和7年6月25日判決(労働判例1341号128頁)~

事案の概要
当事者
被控訴人・一審原告(X社)は、建設、土木工事、水道施設工、警備業(道路交通誘導警備)などを目的とする株式会社である。
控訴人・一審被告(Y)は、平成30年10月からX社に在籍しつつ、同業種の他の会社に出向していたが、令和3年11月4日に退職したものである。
Yの業務内容
Yは、X 社において、統括営業部長として、営業、契約締結、外注先への発注などの業務に従事していた。
出向先では、総務部長として、主に顧客や官公署への営業、積算、各種書類作成、施工管理などに従事していた。
Yの退職時の給与は、月額約36万円であったが、社宅、社用車、携帯電話を無償で貸与されていた。
Yの競業行為
令和元年12月1日、Yは、X社に無断で、A社の取締役に就任した。
A社は、土木工事、建築工事、舗装工事などを目的とする会社であり、Yの出向先会社との間で下請業者としての取引があり、Yが担当者となっていた。
また、令和3年3月9日、Yは、X社に無断で、警備業、建設工事、土木工事を目的とするB社を設立した。
競業行為の発覚と誓約書の作成
令和3年10月頃、X社は、Yが競業行為をしていることを察知し、当時依頼していた弁護士事務所にて、弁護士が作成した誓約書に署名押印するよう求めYはこれに応じた(本件誓約書)。
本件誓約書には、以下の条項が含まれていた。
7項 X社に在職中及び退職後5年間は、X社の承諾なくX社と実質的に競合関係に立つ事業者及びX社の顧客、仕入先その他X社に関係する会社に就職し若しくは役員に就任せず、又は自らかかる事業を営むことをしない。
11項 前各条項に違反した場合は、法的責任を負担するものであることを確認し、違約金として金2000万円を支払うほか、この違反により、X社が被った損害がこれを超えるときは、その部分についても賠償することを誓約する。
Yの退職とその後の競業行為
本件誓約書を作成した翌日、YはX社に対し、退職の申し入れを行い、令和3年11月4日付で退職した。
しかしながら、Yは、令和4年2月1日にA社の取締役を辞任するまで競業行為を継続した。
また、同業の他のC社の営業所に自分のパソコンを置き、C社のために書類作成の業務などを行った。
さらに、Yは、B社で警備業を続けており、同年12月5日に大阪市水道局発注の工事を受注した。
X社の請求内容
X社は、Yに対し、本件誓約書に基づき、違約金2000万円の支払いを求めて提訴した。
本件の争点
本件の争点は、主に、本件誓約書の内容が公序良俗等に違反して無効となるかという点である。
裁判所の判断
7項について
裁判所は、本件誓約書7項について、以下のような理由により、競業避止義務を負う期間について2年間とする限度において公序良俗に違反しないと判断した(2年間を超える部分については公序良俗に違反し無効)。
● Yは、X 社や出向先で相応の役職に就いており、積算方法や取引先情報などといった営業秘密やこれに準ずる情報・ノウハウを有していたことは否定できない
●Yは、X社における立場が低いものであったとはいえず、月36万円の給与のほか、社宅及び社用車の無償貸与を受けていたのであるから、代償措置を定めずに競業避止義務を課すことは、不合理とはいえない
●退職後5年という競業避止期間は、X社での在職期間を踏まえると長期であることは否めず、2 年の限度であれば、不当に長期であるとはいえない
11項について
裁判所は、競業避止義務違反の違約金を定めた本件誓約書11項について、以下のような理由により、違約金の金額を1000万円とする限度において公序良俗に違反しないと判断した(1000万円を超える部分については公序良俗に違反し無効)。
●X社には年間3億円から5億円の売り上げがあり、Yの出向先にも年間6億円から7億円の売り上げがあったことから、Xの競業行為によって相当額の損害が発生する可能性が認められる
●YがX社において相応の待遇を受けていたことを考慮しても、1000万円を超える部分は不当に高額というべき
結論
YはX社に対して、違約金として1000万円の支払い義務があることを認めた。
本件のポイント
人材の流動性が激しい昨今において、所属従業員の競業行為やその防止に頭を悩ませている経営者の方も多いと思います。
競業禁止や違反した場合の違約金について、禁止範囲が広範であったり、違約金の額が高額であるとして公序良俗に違反し無効とされる裁判例は少なくありません。
本件は、上記のような事実関係において2年間の競業禁止、1000万円の違約金を有効と認めた事例として実務上の参考になると思われます。
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2026年4月5日号(vol.314)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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