2026.5.22
スポットワーク労働者による割増賃金請求が認められなかった事例~ 東京地裁令和7年3月27日判決(労働判例1341号143頁)~

事案の概要
当事者
被告(Y社)は、タイミー(アプリケーションソフトウェアを利用して日雇い労働者を求める事業者と求職者との労働契約の成立をあっせんするマッチングサービス)を提供する株式会社である。
原告(X)は、タイミーを利用して、A社との間で労働契約を締結し、就労した者である。
XとA社との労働契約の内容
XとA社との間の労働契約の内容は、以下のとおりである(本件労働契約)。
業務内容
レジ打ち、商品受け渡し等
就労日
令和5年7月19日
就業場所
東京都中央区内
就労時間
午前11時45分から午後0時45分まで
(休憩時間は0分)
賃金
時給1072円
賃金の支払方法
原告指定の口座に振り込む方法により支払う
(Y社が立て替え払い委託により支払う)
Xが主張する勤務内容
Xは、本件労働契約に基づき、令和5年7月19日、午前11時45分から午後1時まで勤務した。
Xは、それに加えて、在宅(鹿児島市内)で、7月17日午前5時から7月19日午前9時までの間に、合計43時間にわたり(7月19日午前5時から午前9時まで)、B社の業務に従事していたため、労働基準法32条所定の労働時間を超えるとして、割増賃金の支払いを求めたものである。
なお、Xによれば、B社での業務は、従業員500人分の勤怠記録を整理し、過去3年間の未払賃金の有無を確認する業務に集中的に従事していたために、1日の労働時間が長時間に及んだとのことである。
本件の争点
本件の争点は、主に、Xによる割増賃金請求の可否(A社での労働時間とB社での労働時間が通算されるか)という点である。
裁判所の判断
Xが主張するB社での労働時間について
裁判所は、Xが主張するB社の労働時間について、以下の理由により、B社の労働時間を認定することはできないとした。
● A社での勤務前に、連日、十分な休憩・休息時間をとらずに早朝から深夜にかけて長時間に
わたり勤務すること自体、不自然である
● 7月19日午前5時から午前9時までの鹿児島市内の自宅で勤務した後、同日午前11時45分から東京都中央区内でA社において勤務することは、およそ不可能であると考えられる
● Xは、B社の勤務表を提出するが、B社との労働契約書等他の証拠を何ら提出しない
A社の労働時間とB社の労働時間の通算について
裁判所は、複数の事業主の下で労働に従事している場合の労働時間の通算について、「当該労働者が他の事業主の下でも労働しており、かつ、同所での労働時間数と通算すると労基法32条所定の労働時間を超えることを当該事業主が知らなかったときには、同事業主のもとにおける労働に関し、当該事業主は、労基法38条1項による割増賃金の支払い義務を負わない」と判断した。
そして、本件では、B社での労働時間を通算するとXの労働時間が法定労働時間を超えることを、Aが知っていたとは認められないとして、A社の労働時間とB社の労働時間の通算は認めないと判断した。
結論
Xによる請求を棄却した。
本件のポイント
昨今、スポットワークによる副業・兼業に伴う法的問題が盛んに議論されていますが、これらの問題に関連する裁判例はそう多くありません。
そのような中で、本件の裁判例の判断は注目されるものです。
複数事業主の下で労働している場合の労働時間の通算について、行政通達「副業・兼業の場合における労働時間管理に係る労働基準法第38条第1項の解釈等について」(令和2.9.1基発0 9 0 1 第3 号)では、「労働者からの申告がなかった場合には労働時間の通算は要せず」とされています。
本件の裁判例も、かかる行政通達の考え方に沿ったものといえるでしょう。
もっとも、本件の裁判例では、「申告はなかったが、他の事業場での労働時間を比較的容易に把握することができた場合」にも通算されるのかという点には触れられておらず、今後の裁判例の動向を注視する必要があります。
また、同通達は、「労働者からの申告等により把握した使用者の事業場における労働時間が事実と異なっていた場合でも労働者からの申告等により把握した労働時間によって通算していれば足りる」としています。本件の裁判例は、労働者の申告した他の事業場での労働時間に信用性がない場合には、通算を認めないこともあり得ることを示した点で意義があるといえるでしょう。
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2026年3月5日号(vol.313)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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