2026.3.12

「パワハラ」口コミ投稿に対する賠償請求・削除請求が認められた事例~東京地裁令和7年1月15日判決(労働判例1334号63頁)~

事案の概要

当事者

原告( X 社)は、人材派遣業及びI Tソリューション事業を営む株式会社である。


被告(Y)は、令和元年8月1日、X社と雇用契約を締結し、X社において勤務していたが、令和2年8月31日に退職した者である。

退職に至る経緯

Yは、入社当初から経済的に不安定な状況にあり、X社から、令和元年9月から令和2年4月にかけて、複数回に分けて合計21万円を借り入れており、弁済期を延期してもらうこともあった。


そのような中で、Yは、実際には通勤定期券を購入していないのにもかかわらず、Xに対し、その購入代金の精算を申請した。


その後、X社代表者は、Yに対し、面談の際に、以下のような発言をした。

Y社代表者

発言①
(X社から借り入れをしていることに対し)「毎月いくら食事に使いました、何に使いましたよって、家賃いくら…返済にいくらだのって。それを公開してもらうことはできないでしょうか。細かなことはいいよ。」

Y社代表者

発言②
(実際には通勤定期券を購入していないにも関わらずその代金を精算したことについて)「それで、そういう虚偽の申請して、これはだって犯罪だよ。わかってる。」

Y社代表者

発言③
(睡眠時無呼吸症候群を患うYに対し)「無呼吸症候群も、首の長さもあるかもしれないけど、でも明らかに平均体重より太ってるんだからね、そうでもないんですか。平均体重ですか。」

その後、Yは、うつ病を発症して、令和2年8月31日に退職したものである。

Yによる投稿の内容

Yは、令和3年1月22日、転職総合サイト「転職会議」の電子掲示板に以下のような投稿をした(本件投稿)。

【気になること・改善したほうがいい点】
 社員に寄り添う風な事を謳っているが、その実中身は全然違うし、パワハラ、独断と偏見が凝り固まっているため、場合によっては精神的な治療が長期間必要になる可能性も十分にある。

Xによる請求内容

Yは、X社に対し、本件投稿の削除及び名誉棄損に基づく損害賠償として約500万円の支払いを求めて提訴した。

本件の争点

本件の争点は、①本件投稿が名誉棄損に当たるか、②本件投稿の内容が真実か否か(パワハラがあったか否か)等である。

裁判所の判断

争点①について

裁判所は、本件投稿について、「X社には職場内に長期間の精神的な治療を要する程度の強度のパワハラが存在するとの事実」を摘示したものであると解されるとした上で、その内容に照らし、X社の社会的評価を低下させるものと認められ、名誉棄損に該当すると判断した。

争点②について

裁判所は、一般論として、名誉棄損が成立するとしても、その行為が公共の利害に関する事実にかかり、かつ、その目的がもっぱら公益を図ることにあった場合には、摘示された事実が、真実である場合には、名誉毀損行為に違法性はなく、仮に真実ではないとしても、行為者において真実と信じるについて相当の理由があれば、損害賠償責任を負わない旨判断した。


本件では、まず、「転職会議」は、転職活動を行っている者が掲示板を見て転職するか否かを判断するにあたり参考となる事実を摘示するものであるから、公益を図る目的のもとにされた投稿であると判断した。


もっとも、パワハラがあったか否かという点について、上記の発言① ~ 発言③はいずれもパワハラには該当しないのであるから、本件投稿の内容が真実であるとは認められず、真実であると信じるについて相当の理由もないと判断した。

結論

裁判所は、Yに対し、①名誉棄損に基づく損害賠償として3 6 万円の支払い、②本件投稿の削除を命じた。

本件のポイント

本件は、総合転職サイト「転職会議」に、会社にとって不名誉な口コミを投稿された会社が、投稿者に対して、名誉棄損に基づく損害賠償請求及び投稿の削除を求めて提訴した事案です。


最高裁判例によれば、名誉棄損に該当するとしても、その投稿の目的がもっぱら公益を図るものであって、その投稿内容が真実であるか又は真実と信じるについて相当の理由がある場合には損害賠償責任を負わないとされています。


本件では、「転職会議」での口コミ投稿に公益性を認めましたが、パワハラがあった事実はなかったと判断して、真実性を否定し、X社による賠償請求を認めました。


裁判所は、パワハラには当たらないとしつつも、損害額を認定する際に、「(Yが)パワハラと認識したことは無理からぬ側面がある」と判示していることから、パワハラに当たるかの線引きが微妙な判断だったのではないかと推測されます。


<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2026年1月5日号(vol.311)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 五十嵐 亮

五十嵐 亮
(いからし りょう)

一新総合法律事務所
理事/弁護士

出身地:新潟県新潟市 
出身大学:同志社大学法科大学院修了
長岡警察署被害者支援連絡協議会会長(令和2年~)、長岡商工会議所経営支援専門員などを歴任しています。
主な取扱分野は企業法務全般(労務・労働・労災事件、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)、交通事故、離婚。 特に労務問題に精通し、数多くの企業でのハラスメント研修講師、また、社会保険労務士を対象とした労務問題解説セミナーの講師を務めた実績があります。
著書に、『労働災害の法律実務(共著)』(ぎょうせい)、『公務員の人員整理問題・阿賀野市分阿賀野市分限免職事件―東京高判平27.11.4』(労働法律旬報No.1889)があります。

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