2026.2.10
タイムカード等で労働時間管理をしていない場合に概括的な認定が肯定された事例~福岡地裁令和5年6月21日判決(労働判例1332号86頁)~

事案の概要
当事者
原告(X)は、Y社の従業員として青果市場内でのセリ関係業務とセリによって仕入れた商品の販売先への配達業務を行う者である。
被告( Y 社)は、農林水産物の売買を目的とし、北九州市の卸売市場内で青果物を取り扱う卸売業者として活動する会社である。
Y社における労働時間の定め等
Y社には、「就業規則」と題する手書きの書面が存在していたが(法的に有効なものとは認められない)、同書面には、「就業時間は1時間の休憩時間を除き実働8時間とする」との記載があった。
Y社では、定まった始業・終業時刻の定めはなく、タイムカード等による労働時間の管理は行われていなかった。
Xの業務内容
Xの業務は、主として、青果市場内でのセリに関係した業務(担当する品目の商品の仕入れ、販売及び在庫の管理)とセリにより仕入れた商品の販売先への配達業務である。
セリは毎日7時に開始され、セリが終了した後は、配達等により事業場外にいることも多かったが、必ず事業場に戻っており、直行直帰をしていたわけではなかった。
Y社の賃金形態
Xには、以下のような内容の賃金が支払われていた。
Y社は、早出手当及び所定時間外手当については、時間外労働に対する手当として支払っていたものであると主張している。
基本給 17万5000 円
早出手当 5万円
所定時間外賃金 3万円
皆勤手当 1万8000 円
Xによる請求内容
Xは、Y社に対し、未払の時間外労働手当として、710万4028円等の支払いを求めて提訴した。
本件の争点
本件の争点は、①Xの実労働時間(始業時刻及び終業時刻の認定)、② Y 社が支払っていた「早出手当」及び「所定時間外賃金」は時間外労働手当として認められるかという点である。
裁判所の判断
争点①について
Xが主張する始業時刻及び終業時刻については、記憶に基づく概括的な主張となっていたが、裁判所は、この点について、Y社においてタイムカード等による労働時間管理が全く採用されていなかったことにも鑑みれば、「客観的な証拠に反し、または明らかに不合理な内容を含むと言った場合には格別、そうでない限りは、上記のように概括的な主張に沿って認定することも許容され得るとするのが相当である」と判断した。
その上で、本件では、Xの業務は、午前7時に開始されるセリの準備から始まり、セリを経て、商品を販売先に配達する準備や在庫管理を行い、販売先への配達業務を行うという流れになっているところ、この流れからすれば、Xが主張する始業時刻及び終業時刻は明らかに不合理な内容を含んでいるとは認められないとして、Xの主張どおりの始業時刻及び終業時刻を認めるのが相当であると判断した。
争点②について
裁判所は、Y社が支給していた「早出手当」及び「所定時間外賃金」については、「これらの手当の支給条件が明確ではなく、明確区分性及び対価性があるとは認められない」として、時間外労働手当として認められないと判断した。
その上で、Y社が支払っていた「早出手当」及び「所定時間外賃金」は、時間外労働手当ではなく、割増賃金の基礎となる賃金に含まれると判断した。
結論
裁判所は、Y社に対し、①660万1721円の支払い( 元本及び確定遅延損害金)、② 539万2600円に対する令和4年7月28日から支払済みまで年14.6%の割合による遅延損害金の支払い(元本に対する賃金の支払い確保に関する法律所定の遅延損害金)、③ 472万4440円の支払い(労働基準法114条に基づく付加金)を命じた。
本件のポイント
タイムカード等による労働時間管理を全く行っていない場合、実際の始業・終業時刻を示す証拠がなくても、本件のように労働者の主張を概括的に認定されてしまうことがあります。
また、Y社のように「早出手当」や「所定時間外賃金」といった時間外労働手当らしき手当を支払っていたとしても、就業規則等で明確な支給条件の定めがなく、明確区分性・対価性の要件を満たしていない場合には、時間外労働手当とは認めてもらえず、割増賃金の基礎賃金に算入されてしまうことにより、却って多額の時間外労働手当の支払いを明示されることがありますので注意が必要です。
本件では、全く労働時間管理を行っていない点が悪質であるとして、付加金の支払いも認められています。付加金まで認められてしまうと企業にとってダメージが大きくなるため、注意が必要です。
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2025年12月5日号(vol.310)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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