2025.10.23
「スポットワーク」の仕組みと注意点

近年、新しい働き方として「スポットワーク」と呼ばれる単発・短時間での勤務があります。
今回は、スポットワークの基本事項を解説します。
概要
スポットワークとは、単発・短時間(1時間~数時間単位、あるいは、1日単位程度)での仕事を指す言葉です。
「単発バイト」や「スキマバイト」といった表現が用いられることもあり、こちらの表現のほうが、聞き覚えのある方が多いかもしれません。
代表的なスポットワークサービスとして、「タイミー」、「シェアフル」、「ショットワークス」、「LINEスキマニ」、「メルカリハロ」等があります。
普及の経緯
以前から建設業、港湾業、運輸業等といった業種においては、「日雇い労働者」の存在はありましたが、2010年代に入りスマートフォン等の普及によりその他の業種においてもスポットワークの普及が本格的に始まりました。
加えて、労働基準法施行規則の改正により、2019年4月から、これまで書面の交付に限られていた雇用契約時の労働条件の明示について、FAX、電子メール、SNS等の電子的方法による明示が認められるようになったことも、スポットワークの普及の一因となっています。
登場人物
スポットワークにおける登場人物は、①運営事業者、②求人企業(使用者)、③求職者(労働者)の3者です。
「運営事業者」は、スポットワークサービスを提供する会社を指し、例えば、上で代表的なスポットワークサービスとして紹介した各サービスにおける「株式会社タイミー」、「シェアフル株式会社」、「株式会社ツナググループ・ホールディングス」、「LINEヤフー株式会社」、「株式会社メルカリ」等が該当します。
「求人企業」は、スポットワークサービスを利用して求人を募る立場の者を指し、いわゆる使用者の立場に当たる者です。 「求職者」は、スポットワークサービスを利用して仕事に応募する立場の者を指し、いわゆる労働者の立場に当たる者です。
利用の一般的な流れ
各スポットサービスによって多少の違いはあると考えられますが、一般的な利用の流れは概ね次のとおりです。
❶求人企業は、スポットワークサービスに登録し、求人を作成し、掲載する。
❷求職者は、スポットワークサービスに登録し、求人情報を閲覧し、求人に応募する。
❸一般的に、面接や履歴書による選考等は行われないことが多く、応募後、求人企業からキャンセルがない限り、指定された日時・勤務場所に向かい、勤務する。
❹勤務終了後、求職者は、スポットワークサービスから賃金の支払いを受ける(立替払い)。その後、
求人企業は、立替払いされた賃金+サービス利用料をスポットワークサービスに支払う。
スポットワークの法的性質(その他の形態との違い)
スポットワークにおいて、求人企業と求職者との間で締結されるのは、「雇用契約」です。
そのため、当然ながら、労働基準法等の適用を受けることになります。
同じく単発・短時間ではあるものの、求人企業と求職者との間で締結されるものが雇用契約ではなく「業務委託契約」の場合は、「ギグワーク」と呼ばれます。
ギグワークの場合は雇用契約ではないため、労働基準法等の適用がありません。
また、スポットワークにおける「運営事業者」は、あくまで求人企業と求職者の雇用契約の成立をあっせんする立場にとどまり、運営事業者と求職者との間に雇用契約は成立しません。
そのため、派遣元と労働者との間の雇用契約を前提にする「派遣」とも区別されます(なお、派遣における日雇いは、2012年の労働者派遣法の改正により、現在、原則として禁止されています)。
メリット
【1】求人企業(使用者)
❶必要な時に必要な時間だけ人材を確保でき、コストを抑えながら効率よく人員を確保できる(条件によるが、単発・短時間の勤務のため、社会保険の加入対象外となることが多く、また、福利厚生費等も削減できる。)
❷スポットワークから長期雇用につなげることが考えられ、その場合、スポットワーク時の勤務状況を使用者側で把握できるため、一般的な採用と比較して、採用後のミスマッチが生じにくい。
【2 】求職者(労働者)
❶単発・短時間での勤務のため、自らの都合やライフスタイルに合わせて柔軟に働くことを可能にする。
❷基本的に、面接や履歴書による選考がないため、応募のハードルが高くない。
懸念点・課題
ここまで見てきましたように、スポットワークは、使用者・労働者それぞれにとって、メリット・利用
価値を有するものです。
一方、面接や履歴書等が不要とされているなどの手軽さから、近年、「闇バイト」といった犯罪行為の募集に利用されているケースが存在するといった指摘もなされています。
これに対し、政府は各運営事業者に対し対策の要請等を行うとともに、各運営事業者においても不正利用防止のための対策(求人内容・企業の審査・監視の強化等)を行っていますが、今後も継続して対策を行うことが求められます。
また、労働者自身も、犯罪行為に加担しないよう、そのような可能性があることを理解し、十分に気を付ける必要があります。
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2025年8月5日号(vol.306)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。





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