2024.7.31

分譲マンションでグループホームはOKか?

※この記事は、株式会社東京商工リサーチ発行の情報誌「TSR情報」で、当事務所の企業法務チームの責任者 弁護士今井慶貴が2017年4月より月に一度連載しているコラム「弁護士今井慶貴のズバッと法談」を引用したものです。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 今井 慶貴

今井 慶貴
(いまい やすたか)

一新総合法律事務所
理事長/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:早稲田大学法学部

新潟県弁護士会副会長(平成22年度)、新潟市包括外部監査人(令和2~4年度)を歴任。
主な取扱分野は、企業法務(労務、契約、会社法務、コンプライアンス、事業承継、M&A、債権回収など)、事業再生・倒産、自治体法務です。
現在、東京商工リサーチ新潟県版で「ズバッと法談」を連載中です。

第87回のテーマ

この“ズバッと法談”は、弁護士今井慶貴の独断に基づきズバッと法律関連の話をするコラムです。

気楽に楽しんでいただければ幸いです。

今回のテーマは、分譲マンションでグループホームはOKか?です。

その1.「住宅としての使用」かどうかの争い

今年7月、大阪市の分譲マンションで障害者グループホーム(GH)を営むのは、住宅以外の用途を禁じる管理規約に違反するとして、管理組合が運営元の社会福祉法人に使用差止めを求めた訴訟について、大阪高裁で和解が成立したというニュースがありました。

このGHを運営する社会福祉法人は、大規模マンションの2住戸を区分所有者から賃借し、20年以上にわたり、重度の知的障害のある6人の方々の生活の場としてきました。

2018年、管理組合は、消防法の改正により消防署からグループホームがあることでマンション全体が「特定防火対象物」として扱われ、新たに消防用設備の設置や定期点検報告義務の対象となり得る旨の指摘を受けたことを契機として、総会決議をもってGHとしての使用を禁止し、居住者を退去させようと大阪地裁に提訴しました。

一審の大阪地裁判決は、GHは「生活の本拠」ではあるが、組合側に防火対策で負担が生じるなど管理規約で予定された「管理の範囲外」にあって「住宅として使用」することに該当せず、管理規約に違反するとして使用禁止を命じました。

その2.画期的な和解の成立

これに対し、大阪高裁は、管理規約にいう「住宅として使用する」に該当するか否かは、あくまで「生活の本拠として使用」されているか否かによって判断すべきであり、管理規約で予定されている「管理の範囲内」にあることも要件とする根拠はないとの見解を示したうえで、GHは利用者の「生活の本拠」として使用されているから、管理規約に違反せず、かつ「共同の利益に反する行為」にも該当するとはいえないとしました。

そのうえで、「地域共生社会の実現により障害の有無にかかわらず多様性を認め合いながら地域で共に生活することを目指すとする障害者基本法の基本理念と、消防法令の遵守による防火、防災が、相反するものであってはならず、当事者双方の相互の理解と協力の下に安定的な解決を図る」ことが必要であるとして和解を勧告しました。

その結果、和解条項では、この2戸の運営を認めるだけでなく、管理規約を改定し、今後マンション内で別のGHを営むことも届け出制で認め、消防点検などの費用はGHの運営元が負担することとなったということです。

最後に一言。

GH側の弁護団のコメント中に、「障害者グループホームが共同住宅内に存在することは地域共生社会を体現していることになる。」という言葉がありました。確かにそうですね。

建設的対話こそが、共生社会への鍵


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