価格交渉のノウハウ(弁護士:今井 慶貴)

※この記事は、株式会社東京商工リサーチ発行の情報誌「TSR情報」で、当事務所の企業法務チームの責任者 弁護士今井慶貴が2017年4月より月に一度連載しているコラム「弁護士今井慶貴のズバッと法談」の引用したものです。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 今井 慶貴

今井 慶貴
(いまい やすたか)

一新総合法律事務所
副理事長/新潟事務所長/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:早稲田大学法学部

新潟県弁護士会副会長(平成22年度)、新潟市包括外部監査人(令和2~4年度)を歴任。
主な取扱分野は、企業法務(労務、契約、会社法務、コンプライアンス、事業承継、M&A、債権回収など)、事業再生・倒産、自治体法務です。
現在、東京商工リサーチ新潟県版で「ズバッと法談」を連載中です。

第62回のテーマ

この“ズバッと法談”は、弁護士今井慶貴の独断に基づきズバッと法律関連の話をするコラムです。

気楽に楽しんでいただければ幸いです。

今回のテーマは、価格交渉のノウハウです。

その1.原材料高と値上げラッシュ

2020年からのコロナ禍から、最近のロシアのウクライナ侵攻に伴う生産や物流の停滞、原油高、円安傾向などにより、輸入品を中心とした原材料、燃料高が生じ、様々な物の値上げラッシュが続いています。

インフレになれば、日本の長きにわたるデフレ経済の脱却に結びつくのではないかとも思われますが、現在のコストプッシュ型の物価上昇は家計の実質所得の減少や企業収益の悪化を通じて景気に悪影響を及ぼすもので、持続的・安定的な2%上昇という物価目標の実現にはつながらないという見方がなされています(5月30日の参院予算委員会での黒田日銀総裁の発言)。

確かに、事業者にとって仕入価格が上がるだけだとすれば、賃上げの原資確保どころか事業の継続自体が危ぶまれることになります。

「安いニッポン」という停滞から抜け出すには物価と賃金上昇の好循環が実現されなければなりません。

そのためには、付加価値分の価格への反映が必要ですが、現実は、それ以前の原材料高の価格転嫁自体も必ずしもうまくいっていない現実があるようです。 対消費者での値上げは目立ってきましたが、取引先への転嫁ができていない中小事業者も少なくありません。

その2.価格交渉力をつけるためには?

中小事業者の相談を受けていると、取引先事業者の優越的地位に基づき、不当な取引条件が設定されているのではないかと感じることがあります。

そういう場合、独禁法、下請法、建設業法違反等の可能性を検討します。

問題があるときは、行政への相談や申告という手段もありますが、今後の取引関係を考えて躊躇されることもあり、できればビジネス上の交渉として解決したいところです。

最近、中小企業庁が「中小企業・小規模事業者のための価格交渉ノウハウ・ハンドブック」なるものをネット上で公表しているのを知り、読んでみました。

“発注者から見た価格交渉のポイント”“価格交渉で使えるテクニック”“適正取引のための先手必勝5か条”など、興味深い内容が盛り込まれています。

法令違反がある場合の“下請かけこみ寺”も紹介しています。

ただ、ハンドブックのねらいは、「品質に見合った適正な価格を支払うという取引慣行を我が国産業に定着させること」にあり、そのための交渉力の向上を期待するものなのでしょう。

最後に一言。

経営者を弱くするものは「安売り」と「補助金」、強くするものは「値上げ」と「借金」だそうです。

値段に見合う価値を提供しているか、それをうまく顧客に伝えているかが問われ ます。

値付けは経営


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