動産売買の先取特権を知ってますか?(弁護士:今井 慶貴)

※この記事は、株式会社東京商工リサーチ発行の情報誌「TSR情報」で、当事務所の企業法務チームの責任者 弁護士今井慶貴が2017年4月より月に一度連載しているコラム「弁護士今井慶貴のズバッと法談」の引用したものです。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 今井 慶貴

今井 慶貴
(いまい やすたか)

一新総合法律事務所
副理事長/新潟事務所長/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:早稲田大学法学部

新潟県弁護士会副会長(平成22年度)、新潟市包括外部監査人(令和2~4年度)を歴任。
主な取扱分野は、企業法務(労務、契約、会社法務、コンプライアンス、事業承継、M&A、債権回収など)、事業再生・倒産、自治体法務です。
現在、東京商工リサーチ新潟県版で「ズバッと法談」を連載中です。

第68回のテーマ

この“ズバッと法談”は、弁護士今井慶貴の独断に基づきズバッと法律関連の話をするコラムです。

気楽に楽しんでいただければ幸いです。

今回のテーマは、動産売買の先取特権を知ってますか?です。

その1.商品の販売先が倒産してしまった!

倒産情報を見ると、取引先の倒産の一報が入った債権者(担当者)の気持ちを考えることがあります。

おそらく「なんとか少しでも回収できないか」という気持ちと、「倒産した以上はどうしようもない」という気持ちが、様々な割合で去来するのではないでしょうか。

今回は、回収したいという気持ちに応えられるかもしれない、動産売買の先取特権(どうさんばいばいのさきどりとっけん)というものを説明します。

実は、動産の販売者には、販売した動産から動産の代金を他の債権者に優先して弁済を受けることができる担保権が民法で認められており、これが動産売買の先取特権なのです。

動産の譲渡担保権のように、当事者間の担保設定行為や対抗要件(占有の移転など)が要求されず、法律上当然に発生することがミソです。

また、破産法上は別除権(べつじょけん)となり、破産管財人に対しても主張できるのもナイスです。

もっとも、破産管財人に動産売買の先取特権を行使したいと伝えても、管財人に協力する義務はないので、動産をさっさと任意売却されてしまうことも往々にしてあります。 債権者としては、先取特権を有することを証明する文書を裁判所に提出し、裁判所の許可を得て動産競売をする必要が出てきます。

その2.動産が既に転売されていたら?

それでは、動産が第三者に転売されていた場合はどうでしょうか。

もはや動産自体を差し押えることはできません。

転売先からすれば、せっかく買ったものを持って行かれる道理はありません。

また、既に転売先が動産の代金を支払済みの場合も、もはや差し押さえるべきものはないので、債権者としてはいかんともできません。

ただ、転売先がまだ代金を支払っていない場合には、転売代金債権について物上代位権(ぶつじょうだいいけん)を行使できる可能性があります。

条件が揃っている場合には、裁判所に先取特権の存在を証明する証拠をつけて債権差押えの申立てをします。

私自身はまだこの手続きをしたことはありませんが、動産ごとに販売と転売の証拠を揃えて申立書を整理する必要があり、裁判所の審査も一般の債権差押えよりは時間がかかるようです。

しかし、これで回収できれば、気分は最高でしょうね。

最後に一言。

今回紹介した動産売買の先取特権がうまくはまる場合は多くないかもしれません。

ただ、こういう方法もあるということを知っていれば、“ワンチャンあるかも”という話でした。

知識は力なり by フランシス・ベーコン


一新総合法律事務所では、「契約書のリーガルチェック」「取引先とのトラブル」「事業承継」「消費者クレーム対応」「債権回収」「コンプライアンス」「労務問題」など、企業のお悩みに対応いたします。
まずはお気軽にお問い合わせください。