2026.9.10

定年後再雇用労働者の雇止めが違法無効とされた事例~横浜地裁令和6年6月27日判決(労働判例1346号17頁)~

事案の概要

当事者

被告(Y社)は、シルクを中心に各種織物・繊維製品の生産・販売等を業とする株式会社である。


原告(X)は、Y社の従業員として、国内向けの生地等の営業販売を担当する部署において営業を担当していた。

Xの労働条件

Xは、令和元年7月31日に定年(60歳)を迎えた。それに先立ち、同年5月31日、Y社の就業規則で定められた定年後の再雇用として、同年8月1日から1年間の期間の定めのある雇用契約を締結した(本件再雇用契約)。


本件再雇用契約における、基本賃金の月額は、定年前の額と同額(20万0998円であった)。

令和2年5月31日、雇用期間を同年8月1日から令和3年7月31日までとして、その余の条件は従前と同内容で本件雇用契約を更新した。

雇止めに至る経緯

Xが所属していた部署は、国内向けの生地等を担当していたが、ファストファッションの台頭や新型コロナウイルスの流行等により、平成28年度に約1億5000万円あった売上げが、令和2年度には約3800万円まで減少した。


Xは、平成27年4月からそれまで従事していた業務に加え、輸入スニーカーの販売事業にも従事していたが、平成29年に、かかるスニーカーのロゴが、商標権侵害に当たるとして販売の差止め等を求める訴訟(商標権訴訟)を提起された。Xは、営業を行いながら、Y社の代理人弁護士の指示のもと、商標権訴訟の証拠資料の収集業務等に従事した。

更新時の条件提示と雇止め

令和3年6月1 1日、Y社は、Xに対し、出勤日数と給料をいずれも半分(月額12万0599円)とし、インターネット販売を所管するEC事業部で勤務してほしい旨伝えた。


同年7月2 8日、Xが、かかる条件提示に同意せず、Y社としては、双方の一致をみることはできないと判断し、本件再雇用契約の更新はしないとして、Xに対し雇止めをする旨通知した(本件雇止め)。

Xらの請求内容

Xは、定年後再雇用を2回継続した状況下での雇止めが、労働契約法19条※に違反して無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認および雇止め後の未払賃金等の支払いを請求して提訴したものである。

本件の争点

本件の争点は、本件雇止めが労働契約法19条に違反し無効となるかという点である。

裁判所の判断

本件雇止めの効力について

裁判所は、以下の理由を指摘したうえで、本件雇止めは、違法・無効であると判断した。

●定年後の再雇用制度は、法令上、事業主に義務付けられた継続雇用制度として、定年後も引き続き雇用されることを希望する従業員について、例外事由に該当しない限り、65歳まで継続雇用する旨を定めたものと解される

●「更新する場合は、労働条件を変更することがある」という旨のY社の就業規則の定めをもって、更新時の労働条件について双方の意思が合致しなければ、更新せず終了する旨合意したと解することはできない

●月額12万0599円というY社が提示した労働条件は不利益の程度が著しく、不合理なものである

●Y社の売上高は減少しているものの、本件雇止め後に役員報酬を増額しており、Xの雇用維持が不可能であったとは認めがたい

結論

裁判所は、本件雇止め後のXが65歳になるまでの雇用が継続されるものと期待する合理的理由があると判断し、令和4 年7月3 1日および令和5年7月31日の期間満了時にそれぞれ従前の契約と同様の条件で更新されると判断した。

そして、本件雇止め後から判決確定日までの未払賃金を支払うよう命じた。

本件のポイント

本裁判例が示すように、高年齢者雇用安定法の趣旨から65歳までの継続雇用の期待が認められやすく、安易な雇止めは無効となるおそれがあります。


更新時に労働条件を変更するには、事前に詳細に制度設計をする必要があります。

それぞれの企業における人事計画を踏まえながら慎重に制度設計をする必要があるでしょう。

Information

※(有期労働契約の更新等)
第19条
有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
①当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
②当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。


<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2026年7月5日号(vol.317)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 五十嵐 亮

五十嵐 亮
(いからし りょう)

一新総合法律事務所
理事/弁護士

出身地:新潟県新潟市 
出身大学:同志社大学法科大学院修了
長岡警察署被害者支援連絡協議会会長(令和2年~)、長岡商工会議所経営支援専門員などを歴任しています。
主な取扱分野は企業法務全般(労務・労働・労災事件、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)、交通事故、離婚。 特に労務問題に精通し、数多くの企業でのハラスメント研修講師、また、社会保険労務士を対象とした労務問題解説セミナーの講師を務めた実績があります。
著書に、『労働災害の法律実務(共著)』(ぎょうせい)、『公務員の人員整理問題・阿賀野市分阿賀野市分限免職事件―東京高判平27.11.4』(労働法律旬報No.1889)があります。

       

関連する記事はこちら