人身事故事案と民法改正 vol.3 ~消滅時効の更新・完成猶予~

1 はじめに

前回は、消滅時効に関する民法の改正が人身事故事案に及ぼす影響について、説明をしました。

(※人身事故事案と民法改正 vol.2 ~消滅時効~はこちら※)

本号では、時効の更新・完成猶予が及ぼす影響について、確認していきたいと思います。

2 時効の更新・完成猶予

⑴ 時効の更新・完成猶予とは

消滅時効期間は、請求者が特段の行動を起こさなければどんどん進行していきます。

既に経過した期間をなかったことにしたり、期間の経過を一時的に止めたりする制度が時効の更新、完成猶予の制度です。

現行法ではそれぞれ、時効の中断、停止と呼ばれています。

 

⑵「 協議を行う旨の合意」制度の新設

更新、完成猶予の整理に当たって、数々の改正がなされていますが、特徴的なのは、完成猶予事由として、「協議を行う旨の合意」の制度が新設されたことです。

当事者間で損害賠償請求の存否や内容等について、「協議を行う旨の合意」をすることによ り、消滅時効期間の経過が一定期間ストップ (完成猶予)します(改正法151条)。

 

⑶ 調停申立て・訴えの提起等が完成猶予事由として整理

また、改正民法においては、調停の申立てや、訴えの提起等が時効の完成猶予事由として整理されることとなりました(改正法147条1 項)。

調停や訴訟の係属中は時効期間の進行が一時的にストップ(完成猶予)し、取下げ等により請求権が確定せずに手続が終了した場合であっても、終了した時点から6箇月を経過するまでは引き続き時効期間の完成が猶予されます。

 

⑷ 具体的な活用場面

ア 人身事故事案においては、原則として怪我の治療が終了したとき(症状固定時)の翌日 から時効期間の進行が開始します。

その後、 後遺障害申請の手続、異議申立ての手続や加害者側との交渉が長引いてしまった場合等に消滅時効の更新、完成猶予を考える必要が出てきます。

 

イ 加害者側との意見の相違が小さい場合には、「協議を行う旨の合意」が有効と思われます。

被害者側が法的手続を行う負担なく、一定の期間を区切って交渉を継続することができます。

 

ウ 加害者側との意見の相違が大きい場合にも、法的な手続に進むのであれば、請求権が確定せずに手続が終結したとしても、その時点から6箇月間は時効の完成が猶予されることになり、次の一手の準備を行う余裕が生まれます(法的手続によって請求権が確定する場合には、時効期間が更新されることとなります)。

 

3 おわりに

時効期間の更新、完成猶予については、どのタ イミングで、どのような方法を選択するか、正確な知識と経験が必要になるかと思われますので、 その管理については、是非ご相談をいただければと思います。

 

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2020年4月5日号(vol.243)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

 

この記事を執筆した弁護士
弁護士 長谷川 伸樹

長谷川 伸樹
(はせがわ のぶき)

一新総合法律事務所 
弁護士

出身地:新潟県村上市
出身大学:神戸大学法科大学院修了
主な取扱分野は、交通事故、債務整理、労働問題。そのほか相続、離婚など幅広い分野に対応しています。
事務所全体で300社以上の企業との顧問契約があり、複数の企業で各種ハラスメント研修の講師を務めた実績があります。

 

 

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