2020.9.28
民法改正のポイント ~保証編③~(弁護士:中澤亮一)
根保証の「極度額」
⑴ 民法改正連載の3回目です。
※過去の連載記事はこちらです※
今回は、保証の中でも根保証の改正について、「極度額」にポイントを絞って確認してみたいと思います。
⑵ まずは、根保証について簡単に確認しておきます。
根保証とは、一定の継続的な取引から生じる不特定の複数債務についてなされる保証契約をいいます。
例えば、①銀行と企業との間での継続的な融資を社長が包括して保証する場合(個人信用保証)や、②雇用契約に関する身元保証、③不動産賃借人の債務の保証などが根保証です。
根保証は、不特定の債務について保証をすることになるため、保証債務の額が予想外に多額になりがちです。
そこで、保証する限度額である「極度額」を定めることができ、改正前民法では、「保証人が個人であって、金銭の貸渡し等によって負担する債務を主債務の範囲に含む貸金等根保証契約」については、極度額を定めなければならないとされていました(改正前民法465条の2)。
この「貸金等根保証契約」とは、根保証の中でもその債務の範囲に「金銭の貸渡し等によって負担する債務」が含まれるものをいいます。
上記①のような個人の信用保証がその典型ですね。
(3)しかし、「貸金等根保証契約」以外の根保証でも、個人の保証人が過大な責任を負うリスクはあります。
そこで、改正後民法では、貸金等根保証契約に限らず、個人根保証契約一般について、書面又は電磁的記録で、極度額を定めなければその効力を生じないとしています(改正後民法465条の2)。
つまり、改正前民法においては、上記例の①のみ、極度額を定めなければ無効との規律があったところ、改正後民法は、上記②③(ただし、いずれも保証人が個人の場合)についても、極度額を定めなければならないとしたのです。
事例
【設問】
アパートのオーナーA(賃貸人)は、入居者B(賃借人)と賃貸借契約を締結する際に、賃料等についてBの親Cに保証人になってもらうことにし、民法改正を意識して、契約書に「極度額は賃料の5か月分」と記載したが、Cとの関係ではそれ以上の記載をしなかった。この契約は有効といえるか。 |
⑴ AとCとの契約は、賃借人Bの賃料等を主債務とする根保証契約といえますが、改正後民法では、書面にて極度額を定めなければ保証契約自体が無効になってしまいます。
⑵ また、この極度額は、保証契約の締結の時点で、確定的な金額を書面又は電磁的記録上定めておかなければならないとされています。
本事例のように、「賃料の5か月分」とだけ定めた場合は、確定的な金額の記載があるとはいえない場合がありますが、同じ書面に、賃料の月額が「8万円」などと記載されていれば、両方の記載を併せ考えて極度額が40万円と確定することができるといえ、個人根保証契約は有効といえるでしょう。
事例のようなアパートの賃貸借契約の場合は、通常、契約書に月額賃料の記載がないということはあり得ないですから、その点ではあまり問題にならないと思います。
しかし、賃料の記載があっても、たとえば賃料が変動する契約になっていて、変動後の金額が未確定な場合に、上記のような記載の趣旨が「変動後の賃料の5か月分」を指すと解されるケースについては、確定的な記載といえず無効となる場合もありますので注意が必要です。
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参考文献 : 筒井健夫・村松秀樹「一問一答民法(債権関係)改正」商事法務
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2020年7月5日号(vol.246)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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