人身事故事案と民法改正 vol.2 ~消滅時効~

1 はじめに

前回は、法定利息に関する民法の改正が人身事故事案に及ぼす影響について、説明をしました。

(※人身事故事案と民法改正 vol.1 ~法廷利息の改正~はこちら※)

本号では、消滅時効に関する改正が及ぼす影響について、確認していきたいと思います。

 

2 消滅時効の改正

⑴ 消滅時効の期間について

ア 不法行為の原則的消滅時効期間

人身事故事案における損害賠償請求権の法的根拠については、不法行為による法律構成が一般的です。

実は、不法行為における消滅時効の原則的な取扱いについては今回改正がありません。

損害及び加害者を知った現行法において、人身事故事案では、この3年~20年という消滅時効期間で規律されて います。
ときから3年、不法行為があった時から20年で消滅時効にかかります(現行民法724条)

 

現行法において、人身事故事案では、この3年~20年という消滅時効期間で規律されています。

 

<不法行為の原則的な消滅時効期間>

① 損害及び加害者を知った時から3年

② 不法行為の時から20年

 

 

イ 生命身体侵害の場合の例外

しかし、改正民法においては、『生命身体侵 害の場合』の不法行為(交通事故により怪我を負った場合が代表的です。)についてのみ、被害者保護の観点から、例外的な取り扱いがなされることになります(改正民法724条の2)。

 

上記の規定により、不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間は損害及び加害者を知ったときから5年、不法行為の時から20年となります。

 

<生命身体侵害事案の消滅時効期間>

① 損害及び加害者を知った時から5年(724 の2)

② 不法行為の時から20年

 

⑵ 改正民法が適用される事案

では、いつの時点の事故から改正民法の消滅時効期間が適用されるのでしょうか。

 

民法の一部を改正する法律(債権法改正)附則35条第2項によれば、改正民法が施行される日(令和2年4月1日時点)において、時効の起算点から3年(現行法における不法行為の消滅時効期間)が経過していないものについては、改正民法が適用され、消滅時効期間が延長されることになります(この点も生命身体侵害事案特有の取り扱いなので注意が必要です。)。

 

 

3 おわりに

消滅時効の改正というと、債権の一般的消滅時効に関する改正(5年~10年)のみに目が行きがちです。

もっとも、不法行為一般については、別途の取り扱いがなされること、さらに生命身体侵害事案の消滅時効については、特則が設けられていることについては、意識を持つべきかと思います。

 

 

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2020年3月5日号(vol.242)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

 

この記事を執筆した弁護士
弁護士 長谷川 伸樹

長谷川 伸樹
(はせがわ のぶき)

一新総合法律事務所 
弁護士

出身地:新潟県村上市
出身大学:神戸大学法科大学院修了
主な取扱分野は、交通事故、債務整理、労働問題。そのほか相続、離婚など幅広い分野に対応しています。
事務所全体で300社以上の企業との顧問契約があり、複数の企業で各種ハラスメント研修の講師を務めた実績があります。

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