2026.10.30

休職期間満了後の退職扱いが違法とされた事例~京都地裁令和7年10月2日判決(労働判例1349号5頁)~

事案の概要

当事者

被告(Y法人)は、病院を運営する一般財団法人である。


原告(X)は、Y法人が運営する病院において、医療相談員として勤務していた者である。

就業規則の変更

Y法人は、令和元年12月16日付けで、就業規則のうち休職に関する部分を以下のとおり変更した(本件規則の変更)。

旧規則新規則
休職の要件業務外の疾病により1年半以上欠勤したとき業務外の傷病による欠勤が3か月(年次有給休暇の日数を含む。)を超えたとき
休職期間1年休職を発令した日から3か月を限度としてY法人が指定した期間。ただし、医師の診断書が提出されY 法人が承認したとき、(中略)には、3か月を限度に更新することがある。
※休職期間の下限は設定されていない

※争点に関する部分のみ記載

欠勤の開始から休職命令に至る経緯

Xは、令和4年11月21日から欠勤するようになった(欠勤の開始)。
Xは、欠勤期間中に毎月1回の頻度でY法人を訪れ、Y法人の担当者に対し療養経過を報告していた。


令和5年3月、Xが、社会福祉士の資格試験に合格したことから、Y法人は、Xは実際には復職可能なのではないかと考えるようになった。


令和5年4月24日、Y法人は、Xに対し、同年2月21日以降の欠勤については休職扱いとすること、休職期間を同年5月20日までとすること、休職期間満了日までに復職できない場合には退職扱いとする旨が記載された通知書を渡した(本件休職命令)。

退職扱いに至る経緯

令和5年5月12日、Xは、Y法人担当者と面談し、復職の意向を伝えた。

Y法人担当者は、復職する場合には、復職が可能である旨の医師の診断書が必要であることを告げた上で、復職日は同年6月16日以降にすることが望ましい旨伝えた。


令和5年5月中旬頃、Y法人において、会議が開かれ、Xが従前から他の職員や患者等との関係でトラブルを生じさせがちであることから、Xとの間で話合いの場を設けるのではなく、Xから同年5月20日までに復職可能である旨の診断書が提出されない限り、休職期間満了による退職扱いにすることとなった。


令和5年5月18日、Y法人は、「令和5年5月20日までに復職可能である診断書が提出されない場合は、退職扱いになる」旨記載された通知書(5月18日付通知書)を送付し、Xは同年5月20日にこれを受領した。


Y法人は、同年5月20日までに診断書が提出されなかったことから、Xを退職扱いとした(本件退職扱い)。

Xの請求内容

Xは、①本件規則の変更は不利益変更であり、労働契約法10条に違反し無効であるから、新規則はXに適用されないこと、②本件規則の変更が有効であるとしても、本件退職扱いは実質的には解雇であり、解雇権濫用法理(労働契約法16条)に違反し無効であることから、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び本件退職扱い後の未払賃金等の支払いを請求して提訴したものである。

本件の争点

本件の争点は、主に①本件規則の変更は有効か及び②本件退職扱いは有効かという点である。

裁判所の判断

争点①(本件規則の変更は有効か)について

裁判所は、本件規則の変更は、私傷病により退職扱いとなるまでの期間を大幅に短縮するものであり、不利益の程度が大きい反面、そこまで大幅に短縮する必要性相当性は認めがたいとして、本件規則の変更は、違法・無効であると判断した。


その上で、旧規則を前提とすれば、令和5年5月20日における本件退職扱いは、いまだ欠勤又は休職期間満了する前に行われたものであるから、本件退職扱いは違法・無効であるとした。

争点②(本件退職扱いは有効か)について

裁判所は、仮に本件規則の変更が有効であったとしても、Y法人担当者が、復職日は同年6月16日以降にすることが望ましい旨伝えたにもかかわらず、Y法人は、話し合いをせず、5月18日付通知書を送付し、しかも、Xがこの通知書を受領したのは、回答期限当日であったことから、Xに対し不可能を強いるものであり、Xの復職に向けた準備を妨げる著しく不当なものであるとして、本件退職扱いは、違法・無効であると判断した。

結論

本件規則の変更が違法無効であると判断しつつ、仮に本件規則の変更が有効であったとしても、本件退職扱いは違法無効であると判断したものである。

本件のポイント

本件では、休職の前提となる欠勤の期間と休職期間を大幅に短縮させたことにより、就業規則の不利益変更が違法・無効であると判断されたものです。

欠勤期間を3か月とする変更は、比較的合理性が認められやすいかと思われますが、休職期間について3か月を限度とし、しかも法人が認めた場合にはさらに短縮する事が可能となる変更について、特に違法性が高いと評価されたものと思われます。


また、休職期間満了後の退職扱いについては、本判決が示すとおり、復職の意向や復帰後の職務等について慎重に話し合いをしながら進めることが求められますので、注意が必要です。


<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2026年8月5日号(vol.318)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 五十嵐 亮

五十嵐 亮
(いからし りょう)

一新総合法律事務所
理事/弁護士

出身地:新潟県新潟市 
出身大学:同志社大学法科大学院修了
長岡警察署被害者支援連絡協議会会長(令和2年~)、長岡商工会議所経営支援専門員などを歴任しています。
主な取扱分野は企業法務全般(労務・労働・労災事件、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)、交通事故、離婚。 特に労務問題に精通し、数多くの企業でのハラスメント研修講師、また、社会保険労務士を対象とした労務問題解説セミナーの講師を務めた実績があります。
著書に、『労働災害の法律実務(共著)』(ぎょうせい)、『公務員の人員整理問題・阿賀野市分阿賀野市分限免職事件―東京高判平27.11.4』(労働法律旬報No.1889)があります。

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