2026.6.16
出張旅費規程の法的性質の見直しの検討について

出張旅費を取り巻く現状
近年、インバウンド需要が急増し、日本における宿泊費は高騰してきました。
現在は中国人観光客の減少により少々落ち着きを取り戻しつつあるものの、従前の宿泊費に比して高騰しているのは事実です。
また、2025年4月から施行された改正国家公務員旅費法では、在宅勤務や直行直帰といった様々な働き方に対応した柔軟な制度設計が採られることとなりました。同法の制度は民間企業においても制度設計のモデルとされることもしばしばあります。
これを機に、貴社の出張旅費規程を見直すことも考えられます。
もっとも、むやみに出張旅費に関する規程(以下「出張旅費規程」といいます。)の内容を変更すれば法的な問題が発生することもあり得ます。
今回は出張旅費規程の法的性質から考え、変更の注意点について検討をしていきたいと思います。
出張旅費規程の法的性質
①出張旅費の種類・性質
出張旅費とは、使用者の命令により勤務地を離れて就業をする際に労働者が負担する費用を補填するために支給される金銭と考えられます。
出張旅費として捉えられているものとしては、①交通費、②宿泊費、③日当の3つが考えられます。
③の日当についてですが、出張中の諸雑費を包括的に補填する目的で支給されるもので、出張中の外食代等の補填が想定されます。
②出張旅費の負担主体
上記のような出張旅費は、当然に使用者が負担すべきものではありません。
労働基準法(以下「労基法」といいます。)89条5号には、就業規則に定めるべき事項として、「労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項」と規定され、労働者に就業に伴う一定の費用を負担させることを想定した規定があります。
実際に就業規則の定めや個別の労働者との合意により労働者の負担を許容した裁判例もあるようです。
もっとも、出張等により通常の勤務地を離れて労働者が就業する場合、その前段階として、使用者の業務命令があることが通常です。
労働者自らが出張を希望する場合でも、使用者がその要否を判断し、最終的には使用者が当該労働者に出張を命じることになります。
そうだとすれば、出張旅費は使用者の命令により労働者が業務を行ううえでやむを得ず負担する費用と位置づけられます。
さらに、出張旅費を労働者の負担とする場合、出張を頻繁にする労働者とそうでない労働者との経済的負担に格差が生じます。
労働者間の不公平感が強まり労働者側からの反発や労働環境の悪化も想定されます。
使用者側としては、事業のために必要な範囲で出張の業務命令を発するものであるため、そこから生じる労働者の旅費等の負担については、やはり使用者側で負うのが穏当かと思われます。
③出張旅費規程の性質
そうだとすれば、使用者側としては、どのような場合にどの程度の出張旅費を補填するか、どのような手続で出張旅費の請求をさせるか等について規程を設ける必要があります。
出張旅費規程は、「事業場のすべての労働者に適用される定め」となるため、就業規則の一部として位置付けられます。そのため、出張旅費規程を作成した場合、その変更には就業規則の変更と同様の制約を受けます。
出張旅費規程の変更について
①変更に関する手続規制
就業規則の変更に当たって労基法は手続的な制約を設けています。
労働者代表者の意見聴取(同法90条)、労働基準監督署への届出(同法89条1項)、変更した内容の従業員への周知(同法106条1項)が必要となります。
さらに、労働契約法9条、10条により、就業規則の内容を労働者との合意なく不利益な内容に変更することは、合理的理由のない限り禁止されています。
むやみに不利益変更を断行すれば、労働者との間で法的紛争になる危険性も高くなります。
②変更の際の留意点
どのような変更により不利益と判断されるかについては、具体的な変更内容ごとに実質的に判断していくほかありません。
宿泊費を定額給付とするか、実費精算とするかの判断1つをとっても、宿泊費の金額をどのように設定していたのか(諸雑費込みの金額として設定していたか)、宿泊費の他に日当の支給があるか、今後の日当の金額に変更はあるか等、条件は相互に影響し合うものと考えられます。
やむを得ず不利益変更をする場合でも、労働者が被る不利益は可能な限り小さくし、労働者側への変更理由の協議・説明といった手続により合理性が認められる可能性が高まります。
おわりに
以上のような出張旅費規程変更の際の具体的・実質的判断に関しては、是非弊事務所にご相談ください。
国家公務員旅費法の改正内容等も踏まえ具体的な変更の留意点について検討をさせていただきます。
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2026年4月5日号(vol.314)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。




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