2026.5.20
能力不足の労働者に対する会社の対応

能力不足とは
労働者の能力不足は、法律上の定義があるわけではありませんが、一般的には会社が労働者
に期待する成果や役割に達していないことを指します。
「会社が求める業務遂行」と「労働者の実際の業務遂行」に差があることをいいます。
例えば、会社が労働者に求める業務の知識や技術が足りない場合、労働者が本来時間内に行うべき業務を行わない場合、労働者の仕事上のミスが多い場合など様々な能力不足があります。
このような場合、会社は労働契約に基づき労働者が本来提供するべき業務を提供していないと考えると思います。
しかし、能力不足の労働者に対して会社が直ちに降格、減給、解雇などの処分をすると紛争に繋がる可能性があります。
能力不足の労働者に対する会社の適切な対応を考えていきたいと思います。
裁判例の動向
①降格による減給
労働条件の不利益変更をする場合、会社と労働者との合意又は就業規則等の明確な根拠規定
に基づいてされることが必要です。
裁判例には労働者の能力不足を原因とする降格であっても、降格が労働者と会社との合意又は就業規則等の明確な根拠に基づいてされたと認めることができない場合、降格の合理的理由の有無について検討するまでもなく、降格による労働者の賃金減額は有効であるとはいえないとした判例があります(東京地方裁判所令和5年6月9日判決)。
この事件は、管理職が一般社員に変更になった場合の月額基本給の変換式の規定が社内資料としてはありましたが、その資料を労基署に届け出ていないことなどから、就業規則の一部又は降格規定の細則と認めることができないとして、降格による減給を否定しました。
②能力不足を理由とする解雇
解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権
利を濫用したものとして無効とされています(労働契約法16条)。
労働者の能力不足のみを理由とする解雇は、能力不足の程度が軽微で一時的である場合や、会社からの適切な指導や教育がなく、改善の機会も与えられない場合などには、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当とはいえないとして解雇無効になる傾向が強いです。
③新卒者と中途採用者の違い
労働者が新卒者である場合、最初から「会社が求める業務遂行」ができるわけではないので、
会社はある程度の時間をかけて能力不足の労働者を指導教育し、業務遂行能力を身につけさせ
ることが求められます。
他方、中途採用の場合、前職での経験や知識を踏まえて即戦力となることを期待して会社は労
働者を採用することが多いと思います。
そのため、中途採用者が、採用時に身につけていると期待した能力や技術が著しく劣っていて
業務遂行に支障が生じている場合や、中途採用者が業務上のミスや上司の再三の指導注意に対して反省せず、簡単に矯正することもできない場合は、改善の余地がないとして解雇を有効とする判例もあります。
会社の対応のステップ
①具体的事実の記録化
会社内で労働者の能力不足の指摘が出た場合、能力不足の内容やそれにより会社の業務にどの
ような支障が生じたのかを具体的事実として記録に残します。
人によって能力不足の評価が異なることもあるので、いつ、どこで、誰が、何を、どのようにして、いかなる結果が生じたのかといった、具体的な事実を客観的に記録しておきます。
②能力不足の労働者へ指導教育
会社は労働者の業務遂行に問題があったときに指導教育をすることになりますが、その前提として「会社が求める業務遂行」が何であるのかを労働者に理解させることが必要です。
会社は、いつまでにどのような行為をするべきだったのかなど「会社が求める業務遂行」の内容を具体的に労働者に伝える必要があります。
また、口頭での注意だけを繰り返しても、労働者は何が問題なのか直ぐに理解できるとは限らないことや、会社が指導教育したことが証拠として残らないことなどから、メール、書面、イントラネット(会社や組織内部でのみ利用される閉じたネットワーク)等で指導教育の内容を記録化します。
①と②の行為を繰り返すことによって、労働者は、「労働者の実際の業務遂行」のどこに問題があり、「会社が求める業務遂行」をするために何が必要なのかを把握するようになります。
③改善の機会の提供
労働者に能力不足の行為があっても、直ちに減給や解雇などの処分を行うのではなく、まず
は改善の機会を与える必要があります。
改善の機会を与えてもなお改善が見られない場合には、労働者の能力が会社の業務内容に適していない可能性もあることから、業務内容の変更や配置転換などを検討し、さらに改善の機会を与えます。
このような段階的なステップを経ても、なお労働者が改善しようとしないのかどうかは、会社の処分の妥当性に影響を与えます。
まとめ
「会社が求める業務遂行」と「労働者の実際の業務遂行」に差があり、会社が労働者を能力不足と評価しても、労働者がその差を認識していなければ、改善することはできません。
会社が能力不足の労働者を処分する場合には、労働者に適切に業務遂行の差を認識させて、指導教育をしたうえで、改善の機会を与えても、なお改善の余地がないと評価できるのかを見極めることが重要です。
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2026年3月5日号(vol.313)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。





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