2026.3.10

災害発生時に求められる人事対応

元日の北陸地方を襲った能登半島地震から2年が経ちましたが、未だ復旧は道半ばです。

こうした大規模な自然災害は、事業活動にも影響を与えます。

そこで、事業継続にとって重要な人事面の対応について、この機会に改めて考えてみましょう。

従業員の被災状況の確認

災害が発生したら、まずは、何をおいても従業員の状況確認です。

これは労働契約法5条に基づき、使用者に求められる対応です。 


具体的な確認事項としては、①従業員の現在地、②従業員及びその家族の安否と怪我の有無・程度、③従業員の自宅の被災状況、④出勤の可否等が挙げられます。

確認の方法は、最近では様々な安否確認システムやアプリがありますので、これらを導入するのもよいでしょう。

また、どのような方法を採用するにしても、平時に訓練をしておくことが重要です。


この確認は、災害が就業時間中に起きた時はもちろん、就業時間外であっても必要です。

出勤できない従業員に対する対応

被災が理由であっても、欠勤となれば原則として無給になります。

そこで、1の確認の結果、出勤できない従業員がいる場合は、そのことを説明した上で、年次有給休暇の取得の検討を促すとよいでしょう。

その場合でも、時季指定権は原則として従業員にあることに留意が必要です。 


なお、自然災害による店舗の倒壊のために営業ができない等の理由で使用者が従業員に自宅待機を命じた場合は、不可抗力であって会社都合ではありませんので、休業手当の支払いは不要です。

ただし、不可抗力と認められるケースは限定的です。

復旧作業と時間外労働

災害により事業所の建物や設備・システム等に被害が生じた場合、事業再開に向けて、出勤できる従業員でその復旧作業を進めることになるでしょう。

そして、早期の復旧のためには、時間外・休日労働が必要になることもありますが、このような非常時にも、例外なく3 6 協定の締結・届出を条件とすることは現実的ではありません。

そこで、災害等で臨時の必要のある場合は、労働基準法33条1項により、使用者は、労働基準監督署長の事前許可(事態が急迫している場合は事後の届出)により、必要な限度で時間外・休日労働をさせることができます。

ただし、この規定による場合であっても、時間外労働・休日労働や深夜労働についての割増賃金の支払は当然必要です。

また、この規定は非常時の例外的規定ですので、厳格に運用すべきです。

過重労働による健康障害防止の観点から、あまりに長時間に亘ることのないように努めるべきですし、やむを得ず長時間勤務になった労働者に対しては、医師による面接指導等を実施し、適切な事後措置を講じることも重要です。

賃金の非常時払い

被災した従業員からは、自宅倒壊による転居や怪我の治療のために、給料を前倒しで支払ってほしいとの要望が出ることがあります。

この点、賃金については、定期に支払うという原則がありますが、非常時の例外として、労働基準法25条は「使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であっても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない。」と定めています。

そのため、被災従業員から前記の請求を受けた使用者は、すでに労務の提供があった分の賃金を、本来の給与支払日より前に支払うことが必要です。


なお、この規定は、「既往の労働に対する賃金」の支払いを義務付けるものであり、未だ労務の提供がなく、予定どおり就業すれば将来発生するであろう給与を支払うこと(いわゆる「賃金の前借り」)まで義務付けるものではありません。

労災申請の助力

従業員が、勤務時間中や通勤途中で災害に遭い負傷した場合や、勤務中に災害が発生し、避難指示に従って避難する途中で負傷した場合は、通常(業務以外の私的な行為をしていた場合等でなければ)、業務災害として労災保険給付が認められます。


このように従業員が労災保険給付を受けられる可能性がある場合、使用者はその申請手続きができるように必要な支援をするべきです。

被災と解雇

被災したことが理由で事業経営が厳しくなることがありますが、そのような場合でも、無条件に従業員の解雇が認められるわけではなく、使用者にはできる限りの雇用維持が期待されます。


それでも、被災による事業場の操業不能により事業継続が困難になった等真にやむを得ない場合には、整理解雇が認められる可能性があります。

しかし、その場合も、整理解雇の4要件(①人員整理の必要性、②解雇回避努力義務の履践、③被解雇者選定基準の合理性、④解雇手続の妥当性)を充たすことが必要です。


有事の混乱の中でも事業を継続するには、平時の備えが重要です。

そこで、BCP(事業継続計画)の策定と合わせて、人事対応についても整理しておかれるとよいでしょう。

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2025年12月5日号(vol.310)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 角家 理佳

角家 理佳 
(かどや りか)

一新総合法律事務所 
理事/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:早稲田大学法学部
主な取扱分野は、相続全般(遺言書作成、遺産分割、相続放棄、遺留分請求など)、離婚問題、後見等、家事事件に力を入れています。
新潟士業相続センターのメンバーとしての活動や、相続セミナーの外部講師を務めるなど、所内外で相続問題の解決に尽力しています。

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