2020.4.30
人身事故事案と民法改正 vol.1 ~法廷利息の改正~
1 はじめに
これまでに、民法改正について、一通りの連載をしていたところです。
その改正内容を人身事故事案の観点からまとめ直したものを、本号から3回にわたり連載いたします。
今回は法定利息の改正が及ぼす影響について説明します。
2 法定利息の改正
⑴ おさらい
法定利息の改正が行われます。
主な改正点は、① 変動利率制の導入、②当面の間、法定利息が5%⇒3%となること、の2点です。
⑵ 人身事故事案への影響
法定利息の改正により、「逸失利益」の計算に差が出ます。
逸失利益とは、損害計算費目のひとつで、事故がなければ得られたであろう被害者の将来の収入が、事故により減少したことに関する損害です。
人身事故実務では、逸失利益は大雑把にいえば以下の計算式から算定します。
【労働能力喪失率】は、当該事故により負った 怪我が回復しきらず、後遺障害として認定された場合に、その障害の等級によって法律で定められています。
法定利息の改正が影響を及ぼすのは【ライプ ニッツ係数】の部分です。
⑶ ライプニッツ係数とは
【ライプニッツ係数】とは、将来継続して給付される金銭を現在の一時金の価値に引き直すために用いられる係数です。
今手元に100万円があるとして、銀行に預けたり、他人に貸したりして利息を得れば、10年後には100万円以上の価値になります。
そのため、10 年後に100万円をもらう場合よりも現在同額を得る価値の方が大きくなります。
そうだとすれば、 将来もらえる100万円を現在の価値に引き直す、つまり中間利息(将来得られるであろう利息)を控除する必要があります。
その役割を果たすのが 【ライプニッツ係数】です。
実際の計算式は非常に複雑なものになります…。
⑷ 具体的影響
法律上、差引くべき中間利息の割合は、法定利息によるものとされています。
改正前民法(現行法)においては、判例上、中間利息を法定利息である年5%として計算をしてきました。
民法改正後は3%の利息が控除されることになります(将来的に、利率が変動する可能性はあります。)。
そのため、逸失利益の額は、民法改正により控除される中間利息の額が減少するため、増額することになります。
3 おわりに
中間利息の控除については、税金や金融機関との貸付など様々な場面で使われている概念なので、この記事を考え方整理の一助としていただければ幸いです。
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2020年2月5日号(vol.241)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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