2024.10.1
代表取締役の住所を登記に載せないでよい?(弁護士 今井 慶貴)
※この記事は、株式会社東京商工リサーチ発行の情報誌「TSR情報」で、当事務所の企業法務チームの責任者 弁護士今井慶貴が2017年4月より月に一度連載しているコラム「弁護士今井慶貴のズバッと法談」を引用したものです。
第89回のテーマ
この“ズバッと法談”は、弁護士今井慶貴の独断に基づきズバッと法律関連の話をするコラムです。
気楽に楽しんでいただければ幸いです。
今回のテーマは、代表取締役の住所を登記に載せないでよい?です。
その1.代表取締役等住所非表示措置
本年10月から、商業登記規則等の一部を改正する省令により、一定の要件を満たした場合には、株式会社の代表取締役、代表執行役又は代表清算人住所の一部について、申出により、登記事項に表示しないこととする措置が定められました。
背景としては、インターネット・SNSの普及等により、登記により「住所」という個人情報が公開されることのマイナス面(起業の躊躇、ストーカー等の被害、過度な営業行為等など)に鑑みて、住所を非表示とすることで代表取締役等のプライバシーの保護につながり、起業の促進も期待されるという経済界の声があります。
要件としては、①代表取締役等の住所が登記すべき事項に含まれる登記の申請と同時に申し出ること、②以下の書面を提出すること(株式会社の実在性を証する書面、代表取締役等の住所等を証する書面、株式会社の実質的支配者の本人特定事項を証する書面。ただし、上場会社については必要な書面を簡略化)です。
これにより、株式会社の代表取締役等の住所の行政区画(例えば、「新潟市中央区」)以外の部分につき非表示とすることができます。
その2.非表示となることのデメリットは?
まず、非表示を選択した会社自体のデメリットとしては、その会社の代表取締役と実在の個人との同一性の確認が難しくなることです。
住所と氏名の2点が一致することは稀ですが、同一行政区画で同姓同名の人は複数いることが考えられるからです。
その結果、取引に際しては本人特定のための必要書類などが別途求められることが想定されます(とりわけ金融取引や不動産取引など)。
また、当該会社の相手方の立場からすれば、代表取締役に対する責任追及をする場合や、会社の本店への訴状送達ができない場合などに代表取締役の住所を知るためのハードルが必要以上に高くなってしまいます。
利害関係を有する者は商業登記簿の附属書類又は登記申請書の閲覧ができ、ウェブ会議システムを利用した非対面の方法でも可能となったものの、かなり面倒であることは否めません。
日弁連は本年5月の会長声明で、弁護士が職務上必要な場合に、代表取締役等の住所を迅速に把握することを可能とする弁護士による職務上請求制度を創設することを強く求めています。
最後に一言。
今回の制度が創設された背景は理解できる面がありますが、代表取締役等の住所を非表示にする場合には、様々な面倒事のほか、その会社の信用という面でもマイナスに働く可能性が否定できないでしょう。
代表取締役は、どこのだれべえ?
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