2018.10.16
120 年ぶり!民法大改正 重要ポイント解説 vol.3~心裡 留保と錯誤~
民法改正重点解説の第3回目です。
今回は、心裡留保と錯誤を取り上げます。
実務への影響というより、学問的な内容の方が大きくなってしまいますので、ご容赦ください。
1 総論
(1)心裡留保・錯誤は、意思表示に瑕疵がある類型です。
民法の伝統的な理解では、「意思表示」とは、「一定の法律効果の発生を欲する旨の意思の表明」とされています。
そして、「意思表示」は、①意思表示の内容を決定する「動機」があり、②この動機に基づいて「効果意思」が発生し、③その効果意思を外部に表現しようとする「表示意思」が発生し、④その結果、外部に対して「表示行為」を行う、という過程を踏むと整理されています。
(2)具体的には、ある人(以下「X」とします。)がおにぎりを購入する場合、①おにぎりを食べたいという「動機」に基づいて、②そのおにぎりを100円で購入したいという「効果意思」が発生し、③そのおにぎりを購入しますと店員に告げようとする「表示意思」が発生し、④その結果店員に対して「おにぎりをください。」と告げるという「表示行為」が行われる、と整理されるということです。
(3)このうち、「意思表示」に当たるのは②から④であって、①の動機は「意思表示」には当たりません。
「おにぎりを食べたい」という気持ち自体は、「一定の法的効果(=おにぎりを購入すること)の発生を欲する」ものとはいえないからです。
2 心裡留保
(1)心裡留保とは、表示行為に対応した効果意思がないことを認識しながらした意思表示のことをいいます。
Xが、実はおにぎりを購入するつもりがないのに(=②効果意思がないのに)、店員に「おにぎりをください。」と告げる(=④表示行為をする)ことをいいます。
(2)旧民法93条はこのようなXの意思表示は、原則として有効としつつ、店員の側が、Xの「真意を知り、又は知ることができたとき」(旧民法93条ただし書)には、その意思表示は「無効」であるとしていました。
(3)しかし、旧民法下では、第三者との関係でも意思表示が無効になるかどうかという点は、解釈に委ねられていました。
(4)そのため、新民法93条2項は、心裡留保による意思表示の無効は、「善意の第三者に対抗することができない。」と規定しました。
(民法上の「善意」、「悪意」というのは、通常の意味と違って、ある事柄を知らないこと(=「善意」)、知っていること(=「悪意」)という意味で使われます。)
つまり、第三者については、Xが心裡留保であることを知らないでXと取引をした場合には、Xの意思表示が有効であるとして取り扱う、ということになります。
3 錯誤
(1)旧民法95条は、「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。」と定めていました。
注意が必要なのは、「動機」に錯誤があった場合、当然に旧民法95条の適用があると考えられているわけではないということです。
同条の適用があるのは、「意思表示」ですが、動機は、1⑶で見たように、「意思表示」ではないと理解されているからです。
(2)しかしながら、社会で生じる錯誤の大半は、動機に錯誤がある場合です(値上がりすると思って土地を購入したにもかかわらず、実際には値上がりしなかった場合など)。
(3)そのため、新民法95条は、錯誤を①「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」(同条1項1号)と、②「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」(同条1項2号)に分け、これらの錯誤が「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるとき」に、その意思表示を「取り消すことができる」としました。
ただし、②の場合に取り消すことができるのは、「その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限」られます(同条2項)。
(4)なお、錯誤が表意者の「重大な過失」を原因とする場合には、⑴相手方が錯誤であることを知り、又は重大な過失により知らなかったとき、⑵相手方が表意者と同じ錯誤に陥っていたときを除いて、表意者は、意思表示の取消しをすることはできません(同条3項1号、2号)。
(5)また、錯誤による意思表示の取消しは、「善意でかつ過失がない第三者」に対抗することはできません(同条4項)。
心裡留保の場合と異なり、第三者が保護されるためには、善意だけでなく無過失であることも要求されることに注意が必要です。
◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 下山田聖
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2017年12月5日号(vol.215)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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