2018.8.1

120 年ぶり!民法大改正 重要ポイント解説 vol.1~消滅時効~

 

平成29年5月26日に、民法の一部を改正する法律(以下「新民法」といい、従来の民法を「旧民法」といいます。)が成立し、同年6月2日に公布されました。新民法の具体的な施行日は未定です(2017年9月時点)。

今回は、新民法のうち消滅時効の重要部分を取り上げます。

 

新民法では、債権は、原則として、①「債権者が権利を行使することができることを知った時」(主観的起算点)から「5年間行使しないとき」又は、②「権利を行使することができる時」(客観的起算点)から「10年間行使しないとき」に、時効により消滅することになりました(166条1項1号、2号)。

旧民法下の5年よりも短い時効期間や商事消滅時効の規定はなくなりました。

1. 人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効

新民法では、「人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権」の時効期間について、主観的起算点から5年間、客観的起算点から20年間となりました(167条)。

これに伴い、この場合の不法行為による損害賠償請求権の消滅時効も改正され、時効期間の面では債務不履行と同じになりました。

2. 時効の完成を妨げる事由

旧民法には、時効が完成しない概念として、時効の「停止」と「中断」がありましたが、新民法では、これらをなくし、時効の「完成猶予」と「更新」という概念を設けました。

「完成猶予」事由がある場合には、その事由が終了するまでの間(確定判決等によって権利が確定することなくその事由が終了した場合にはその終了時から6箇月を経過するまでの間)は、時効が完成せず、当該事由の終了後に時効期間が新たに進行します。

時効の完成猶予事由は、裁判上の請求、支払督促、訴訟上の和解、破産手続等への参加、強制執行等、仮差押え等、催告、天災等、協議を行う旨の合意などが規定されています。

このうち、協議を行う旨の合意(151条)は、新民法で新たに規定されたものなので、以下で解説します。

3. 協議を行う旨の合意による事項の完成猶予

旧民法においては、協議中であっても時効の完成を阻止できなかったため、協議中に時効の完成が近づいた場合には、訴えを提起するなどの方法を採らざるを得ませんでした。

新民法では、「権利について協議を行う旨の合意」が書面(電磁的記録を含む。)でされた場合には、一定期間、時効の完成が猶予されます。

この一定期間とは、①「その合意があった時から1年を経過した時」、②「その合意において当事者が協議を行う期間(1年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時」、③「当事者の一方が相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から6箇月を経過した時」のいずれかの期間です。

また、猶予期間中に改めて合意をすることで、再度の猶予期間を得ることができますが、本来の時効満了時から起算して5年間を超えることはできません。

4. 新法の時効規定が適用される債権について

時効期間については、「施行日前(施行日以後に債権が生じた場合であって、その原因である法律行為が施行日前にされたときを含む。)」に発生した債権については、旧民法の規定が適用され(附則10条4項)、施行日以後に発生した債権について新民法が適用されることになります。

また、旧民法上の時効の中断・停止事由は、施行日前に生じたものについては旧民法に従い、施行日以後に生じた場合には、新民法の規定が適用されます。

不法行為債権については、施行日において旧民法724条後段の期間が経過していないものについては、新民法が適用されることになります(附則35条1項)。

生命・身体侵害に基づく損害賠償請求権についても同様です。

 

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 下山田聖

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2017年10月5日号(vol.213)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。