2015.11.1
知っておきたい改正労働者派遣法
はじめに
みなさんの事業所では、派遣社員は働いていますか?
統計によると、全労働者の約2%、非正規労働者の約6%の人が派遣で働いていますが、少人数であっても派遣を利用している事業者の方は多いと思います。
この度、労働者派遣法が大きく改正され、今年9月30日より施行されました。
概要をまとめると、次の3つとなります。
① 派遣期間の撤廃
② 労働契約申込みみなし制度
③ キャリアアップ支援制度
今回は、派遣先事業者を対象に、この3つの制度を大まかに理解してもらうための内容となっております。
ポイント1 派遣期間制限の撤廃
派遣制度の規制緩和
歴史を振り返ると、労働者派遣制度は規制緩和の一途をたどっています。
まず、派遣を利用できる業務について、30年前に派遣法が成立した当初は13業務に制限していましたが、現在は、建設業務などの一部の業務を除き、派遣を受け入れることができるように拡大されました。
これと併せて拡大されていったのが派遣社員の受入れ可能期間です。
専門性のある特定26業務を除き、受入れ可能期間は1年から3年に拡大されていき、この度の改正では、受入れ可能期間の制限が撤廃されました。
もっとも、法律上では、3年の派遣期間制限があることを前提に、一定の手続き(意見聴取手続き)を踏むことで延長が可能であるという体裁となっています。
また、同一の人を3年以上、同一事業所の同一の課で派遣社員として受け入れることは禁止されました。
ただ、3ヶ月のクーリング期間を設けることで、再度同一の人を派遣社員として受け入れることは可能です。
このように、一定の手続き的な制限はあるものの、人を変えれば無制限に派遣社員を受け入れることができることになり、派遣期間の制限が撤廃されたのです。
また、派遣元に無期雇用されている者や60歳以上の者の派遣など一定の者については、そもそも期間制限の対象外とされています。
意見聴取手続きとは
では、派遣期間を3年から延長するために必要な意見聴取手続きについて説明します。
まず、意見を聴取する相手は、派遣社員を受け入れている事業所の過半数労働組合又は過半数代表者です。
派遣社員の受け入れは、事業所内の人事構成に関わるなど労働者にとって関心の高い事項ですから、労使間できちんとした話し合いがなされるようにしているわけです。
手続きの流れは、使用者は、3年の派遣期間が終了する一ヶ月前までに、十分な考慮期間を設けて、派遣期間を延長する旨と予定期間を書面で通知し、これに異議が出た場合には、対応方針を書面で説明するというものです。
ポイント2 労働契約申込みみなし制度
期間制限違反やいわゆる偽装請負などの重大な派遣法違反があった場合の派遣先に対する制裁として、労働契約(雇用契約)の申込みがみなされる制度が導入されました。
先ほど、同一人を3年以上、同一事業所内の同一課で派遣社員として受け入れることはできないと説明しましたが、これに違反した場合、派遣先はその派遣社員に対して労働契約(雇用契約)を申し込んだものとみなされ、その派遣社員が希望する限り、労働契約(雇用契約)が締結されたことになるわけです。
なお、雇用条件は、派遣元との間の雇用条件と同一となります。
このように、規制緩和の一方で、違反に対する制裁という形で、派遣労働者の地位の安定を図っているのです。
ポイント3 キャリアアップ支援
この度の派遣期間の撤廃は、労働派遣市場の自由化を企図したものですが、他方で、派遣労働者のキャリアアップ支援を制度化し、その地位の安定化を図っています。
派遣先との関係で重要なのは、①雇入努力義務と②採用情報提供義務です。
①雇入努力義務は、1年以上、同一事業所で受け入れた派遣社員について、派遣先が新規採用を予定があり、派遣元からの直接雇用の依頼がある場合には、直接雇用をするよう努力しなければならないという義務です。
②採用情報提供義務は、派遣社員として一定期間を受け入れた者に対し、新規採用の情報提供を義務付けるものです。
いずれも、実際に就労した派遣先での直接雇用が、派遣社員の効果的なキャリアアップにつながるとの発想から導入された制度となります。
さいごに
大まかにしか紹介することができませんでしたが、キャリアアップ支援が制度化されてはいるものの、派遣期間の撤廃という規制緩和に重きが置かれているため、派遣労働者の地位の不安定さが残り、紛争につながりやすい印象を受けます。
制度を正確に理解することは当然として、ビジョンを持って利用しないと、思わぬ落とし穴にはまるかもしれません。
無用の紛争を回避するためにも、要所で専門家に相談する必要があるかと思われます。
<初出>
・顧問先向け情報紙「こもんず通心」2015年11月1号(vol.184)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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