2015.10.1
不正に流出した営業秘密の保護~不正競争防止法の改正について~
現代における情報の価値
情報データの重要性は日々増しています
近年は、コンピュータやネットワークなどの性能が進歩し、かつ広く普及してきたことで、事業者は営業活動を行うにあたって大量の情報データを収集・保有し、それを利用するようになってきました。
営業活動における情報データの価値は、日々増しているものといえます。
また、上記のような営業の面だけでなく、技術の面においても、事業者が自社の技術に関する情報を管理し、他者に容易に模倣されないようにするのは重要なことです。
このように、近年においては、事業者の保有する情報が高い価値を有しているという状況があります。
そのため、その情報を、他人が不正に取得して利用するような事件も発生しており、大きな社会問題となっています。
たとえば、ベネッセの顧客情報が他の事業者に流出し、流出させた人物として派遣社員のシステムエンジニアが逮捕された事件は、マスメディアで大きく報道されましたので、報道を目にした方も多いと思います。
情報の漏えい等を規律する法律ー不正競争防止法
このような情報漏えい行為などに対応する法律として、「不正競争防止法」という法律があります。
不正競争防止法は、事業者が秘密として管理している有用な技術上または営業上の情報であり、かつ非公知な情報のことを、「営業秘密」と呼んで、営業秘密を不正に開示する行為や、不正に開示された営業秘密を利用する行為を禁止し、罰則も定めています。
不正競争防止法の改正
平成27年7月、上記の不正競争防止法について、その一部を改正する改正案が可決・成立しました。
この改正は、上記の営業秘密の保護をさらに強化するという内容のものです。
以下では、改正点のうち、特に処罰の範囲が拡大したという点について説明いたします。
営業秘密の転得者処罰範囲の拡大
営業秘密が他人によって不正に取得され、さらに他人に開示されて利用されるというケースにつきまして、今回の改正以前は、処罰される人の範囲が狭く限定されていました。
具体的には、従来は、最初に営業秘密を不正に取得した人(一次取得者)と、その人から営業秘密を取得した人(二次取得者)だけが刑罰の対象でした。
そのため、二次取得者からさらに営業秘密を取得した人(三次取得者)や、さらに三次取得者から取得した人(四次取得者)、及びその後の五次取得者以降の人については、たとえその営業秘密が不正に開示されたものと知った上で、その営業秘密を自ら使用したり他人に開示したりしても、刑罰の対象とはなりませんでした。
三次取得者以降の取得者に対する刑罰
今回の改正では、この点につきまして、三次取得者以降の取得者につきましても刑罰の対象となりました。
すなわち、今回の改正が施行された後は、営業秘密に該当する情報(事業者が秘密として管理している有用な技術上または営業上の情報であり、かつ非公知な情報)を、それが不正に開示されたものであることを知りながら、または重大な過失により知らないで、取得、利用または開示した人は、たとえ三次取得者以降であっても刑罰の対象となります。
たとえば、前記のベネッセのようなケースでは、流出した顧客情報を取得した人は、その情報が数次にわたって転々流通した後のものであったとしても、不正に開示されたものと知りながら取得、利用または開示すれば、刑罰の対象となってしまいます。
改正を踏まえて留意すべきこと
不正に開示された情報であるかどうかの確認
上記の改正を踏まえ、みなさまが留意すべきこととしては、まず、営業秘密に該当する情報を取得、利用または他人に開示する場合においては、その情報が不正に開示されたものではないことを確認し、可能であれば裏付け調査を行うべきです(「重大な過失」があったと評価されるのを防ぐため)。
そして、不正に開示された情報であると分かった場合は、絶対に取得、利用または他人への開示をしてはいけません。
また、不正に開示された情報であるかどうかが疑わしい場合は、念のために弁護士に相談した上で対応することをお勧めします。
他方、営業秘密を保有する事業者の立場で、もしも自らの営業秘密が漏えいしてしまったと考えられる場合は、速やかに弁護士に相談して、損害の拡大防止や行為者の処罰のために適切に対応していくべきです。
情報管理体制の整備
また、事業者の立場におけるそもそもの対策としては、情報管理体制を十分に整備して、営業秘密の漏えいが容易に発生しないようにしておくべきです。
当事務所にご相談いただければ、当事務所内の情報管理対応チームが、情報漏えい対策を始めとする様々な点につきまして、情報管理体制整備のご提案をさせていただきます。
情報管理体制に少々でも不安のある事業者の方は、どうぞお気軽にご相談ください。
<初出>
・顧問先向け情報紙「こもんず通心」2015年10月1号(vol.182)
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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