会社が倒産した場合、社長はどうなる?法人の負債に対する責任や、その後の生活への影響について

この記事を執筆した弁護士
弁護士 今井 慶貴

今井 慶貴
(いまい やすたか)

一新総合法律事務所
副理事長/新潟事務所長/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:早稲田大学法学部

新潟県弁護士会副会長(平成22年度)、新潟市包括外部監査人(令和2~4年度)を歴任。
主な取扱分野は、企業法務(労務、契約、会社法務、コンプライアンス、事業承継、M&A、債権回収など)、事業再生・倒産、自治体法務です。
現在、東京商工リサーチ新潟県版で「ズバッと法談」を連載中です。

はじめに

あなたの会社の経営状況が悪化し、会社を倒産しなければならなくなったとき、債権者や従業員への対応だけでなく、代表者・社長個人がその後どうなるのかも気がかりなことかと思います。

このコラムでは、会社が倒産した場合に、社長自身が負債を負うことになるのか、社長個人として自己破産した場合、ご家族も含めた財産や生活にどのような影響があるのかについて、解説いたします。

\コラムのポイント/
・会社が倒産した場合、社長(代表者)が会社の負債を負うことになるのか
・社長個人が自己破産した場合、家族やその後の生活への影響はあるのか

1.会社が倒産した場合に、社長個人に問われる責任について

会社が倒産(法人破産)したら、法人と社長個人は法律上別扱いになる

会社が倒産した場合、代表者である社長個人が会社の債務を負わなければならないのでしょうか?

法律上は、法人と代表者とは別人格とされていることから、原則として、法人の債務の返済義務を負うものではありません。

個人事業主の場合は借金が残るので注意

これに対し、個人事業主の場合には、法人格は一つですので、事業上の資産・負債と私生活上の資産・負債とが区別されるわけではなく、個人として債務を負うことになります。

2.社長が法人の負債を負うケースとは?

それでは、社長個人が法人の負債について返済すべき義務を負うケースは一切ないのかというと、そうではなく、以下のような場合があります。

会社の保証人・連帯保証人になっている場合

まず、社長個人が、会社の連帯保証人となっている場合には、主たる債務者である会社が返済できない負債を個人として返済すべき義務を負います。

中小企業などでは、金融機関からの融資を受ける場合に、社長個人が保証人になることを求められるのが少なくないのが実情です。

会社や第三者に対する損害賠償責任を負う場合

また、取締役には、会社法により、会社に対する善良なる管理者としての注意義務や忠実義務などが定められています。

つまり、法令や定款等に従って注意深く業務を行うべき義務があり、これらの任意を怠って会社に損害を与えた場合には会社に対する損害賠償責任を負います。

また、職務を行うについて悪意または重過失があったときは、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負います。

会社から借り入れをしている場合

さらに、社長個人が会社からお金を借り入れていた場合には、当然ながら返済義務があります。

例えば、会社が破産した場合には、

裁判所に選任された破産管財人が会社の財産を管理し、換価(会社財産の売却)などを行って債権者に分配(配当)します。 会社からの借入金(債権)も会社の財産となりますので、破産管財人から貸金の返還請求を受ける可能性もあります。

もっとも、社長個人が破産手続をして、免責決定を受けた場合には借入金の返還債務も免責となることが通常です。

3.会社が法人破産する場合に注意すべきこと

会社が法人破産をする場合に、やってはいけないことがありますので、くれぐれも注意してください。

会社財産を社長に移さない

今後の生活への不安から、会社の財産を社長名義に変更してしまうと、それは債権者への支払いに充てられる原資となるべき会社を隠した財産隠匿行為と見られるおそれがありますので、そのようなことは避けてください。

会社財産を隠したり処分したりしない

同様に、会社の在庫その他の財産を不当に安い価格で売却したり、無償で贈与することもしないでください。

債権者を害する目的で、債務者の財産を隠匿・損壊する行為をした場合、最悪の場合、破産法で定める詐欺破産罪という罪に問われることもあり得ます。

破産前に一部の取引先や親族への返済をしない

債権者に対し、一般的・継続的に債務の履行ができない状態を支払不能といいます。

そのような状況下で、懇意としている一部の取引先への支払いや、親族や知人からの借入れへの返済をする場合、債権者平等を害する偏頗弁済(へんぱべんさい)と評価されるおそれがあります。

その後に、破産管財人から否認権を行使されて当該取引先や親族・知人等へ返還を求める請求がなされることもあり、よりいっそう迷惑を掛けてしまいかねません。

役員報酬の支払いをしない

労働者に対する賃金は、法令により仕入れ代金や借入金に優先する債権として位置づけられています。

しかし、会社の代表者は一般的には労働者にはあたらないことから、賃金のように優先して支払ってよい債権とはされていません。

結果として、偏頗弁済と評価される可能性もあるため、弁護士に確認をしたうえで支払いを受けることが望ましいでしょう。

4.会社倒産と同時に自己破産した場合の生活への影響は?

会社の倒産と同時に、社長個人も自己破産した場合、個人の資産はどうなるのでしょうか?また、破産後の生活にどのような影響があるのでしょうか?

生活に最低限必要な自由財産は残る

自己破産すると、破産手続開始決定時における個人資産の管理・処分は、破産管財人に専属することになります。

しかし、すべての財産がとりあげられては生活ができませんので、最低限必要な部分が破産管財人の管理に属さない「自由財産」とされます。

法律の規定や破産手続開始後の裁判所の自由財産拡張決定によって、合計99万円の範囲内までの財産(例えば、現預金、自動車、生命保険など)は手元に残すことが認められる運用となっています。

破産後に制約されるものについて

①職業における制約

破産した場合、一部の職業(宅地建物取引士や警備員など)については資格の制限に該当してしまいます。
公務員については特に制限はありません。

しかし、免責決定を受けると復権し、資格制限はなくなりますので、制限があるのは破産の手続中に限られます。

②転居や旅行における制約

破産手続中は、裁判所の許可を得なければ、その居住地を離れることができないとされています。
転居のほか、2泊以上の旅行・出張も、原則として該当されると解されています。
破産手続後このような予定がある場合には、代理人を通して許可申請をすることにより、破産手続に支障がなければ概ね許可されることになります。

③郵便物における制約

破産手続き中(原則として第1回債権者集会まで)は、破産者宛の郵便物は破産管財人に転送されることになります。
これは破産管財人が申告されていない財産等を発見するためのものであり、封書についても中を開けて見ることが許されています。

急いで受け取る郵便物がある場合には、破産管財人に連絡しておくなどして、配慮を求めた方がよいでしょう。

別会社を起業したり、代表取締役になったりすることは可能?

破産することによって、会社設立の発起人となったり、会社の取締役となることの制限は特にありません。

もっとも、破産により、信用情報機関に登録される(俗にいうブラックリストに載る)ことから、新規の与信を受けることは当面困難ですので、資金調達という意味では制約があることは否めません。

自己破産したことを周囲に知られる?

自己破産する場合には、当然その前段階で債権者に通知を発することになりますので、債権者には周知されることになります。

また、破産手続開始決定がなされると、官報に掲載されることになるため、その意味では人に知られうる状態とはなりますが、一般的には官報をチェックしている人や企業は多くないものと思われます。

5.社長の家族への影響はある?

代表者への制限は家族には影響しない

代表者が自己破産した場合、代表者の家族について何らかの影響があるかというと、信用情報機関への登録なども含めて、直接的に家族に影響が生じることはありません。

もっとも、同一の生計にある家族の場合には、代表者の破産手続に必要な範囲で家族の収入や支出の資料を求められたりすることはありえます。

法人の債務の連帯保証人になっている場合は責任を負う

もっとも、代表者の家族が、会社や代表者個人の債務について連帯保証人になっていたような場合には、保証債務に基づく支払いを求められることになります。

6.まとめ 会社倒産は早期の対応が重要

会社倒産時に社長がとるべき対応

会社の倒産を考えなければならない状況のときには、まずは会社についてどのような対応をするのかが最優先となります。

しかし、会社が倒産したときに、保証債務を負っている社長個人の債務やその後の生活がどうなるのかについても、当然に気になることかと思います。

会社のご相談を受ける場合には、社長個人の資産・負債の状況や気に掛かることをお聞きし、どのような方針で債務を整理していくかについても詰めていくことになります。

特に、自宅を残せるかどうかどうかを気にされる方も多く、どのような方法をとりうるかをご説明して、方針を選択していくことになります。

経営状況が悪化した場合は、早期に対策を立てることが重要

このコラムでは、社長の債務整理の方法として、自己破産について説明をしました。

しかし、債務整理の方法は自己破産だけではありません。

最近では「経営者保証ガイドライン」に基づいて、金融機関と保証債務についての協議に基づいて破産をしないで債務整理を行うという方法もあり、このような方法が適する案件では、積極的に採用を検討していくことになります。

また、事案によっては民事再生を申し立てることもあります。

対応の選択肢を狭めないためにも、お早めにご相談いただくことをお勧めいたします。


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