法人破産する費用がない!破産手続費用と払えない場合の対処方法


会社の資金繰りが難しくなり、取引先に対して支払不能の状態になってしまった…など、経営破綻した場合には、経営者は事業再生、法人破産などを検討することになります。

会社の再生を断念せざるを得ない場合には、法人破産をすることで、法人の抱えた負債(債務や滞納税金)を消滅させ、経営者個人も生活再建を目指すことができるようになります。


しかし、破産手続きを行うためにも費用が必要となります。

そのため、完全に経営が完全に破綻してしまってからでは、破産手続きを行うことさえも難しいという状況になってしまいます。

では、法人破産費用が工面できない場合には、どうすればよいのでしょうか?


このコラムでは、

・会社の破産手続きに必要な費用について
・裁判所におさめる予納金とは何か?
・破産費用が用意できない場合の対処法と注意点


について、企業法務に注力する弁護士がわかりやすく解説します。

1.法人破産に必要な費用とは

法人破産にかかる一般的な費用

破産手続きを行う際に必要な費用には、大きく分けて「裁判所に納める費用」と「弁護士に支払う費用」の2つがあります。主な費用の内訳は以下の通りです。

◆裁判所に納める費用(予納金)

①予納金(引継予納金)…70万円~1,000万円以上 
破産手続き開始前に裁判所に納める費用のことで、予納金額は負債額により決まります。※詳細は後述します。


②申立手数料…1,500円程度
破産申立ての際の申立手数料。※破産申立をする法人の本店所在地を管轄する裁判所の規定によります。


③予納郵券
裁判所から債権者への連絡に用いる郵便切手(郵券)です。郵券の納付額は、管轄する裁判所や、債権者数等により異なります。


④官報公告費用…15,000円程度
会社を倒産させる場合には、破産手続開始についてすべての債権者に知らせる必要があります。そこで、国が発行する「官報」に掲載し、破産の事実を広く周知します。

◆弁護士に支払う費用

⑤申立代理人弁護士費用

破産手続開始申立ては、会社の代表者本人が行うことも可能です。

しかし、破産申立てに必要な書類準備や債権者対応はとても労力を要します。


後述しますが、弁護士に依頼することで、場合によっては予納金が減額できるなど大きなメリットがあります。


裁判所に納める費用は、破産手続きを行うために必ず支払わなければならないものです。

これを準備できないと会社を破産させることができません。

法人破産を検討するときには、少なくとも手元に200万円程度を用意しておいたほうがよいと言えるでしょう。

法人破産する場合に必要な予納金とは

では、破産手続きの行う場合に裁判所に納めなければならない「予納金」とは何のための費用でしょうか。


予納金とは、法人または個人が自己破産手続きを行う際に、手続きにかかる費用として、裁判所に前もって納めなければならないお金のことです。

予納金には、破産申立手数料、予納郵券、官報公告費などが含まれますが、その大部分を引継予納金が占めています。

引継予納金の目安は以下の通りです。

[負債額][引継予納金額]
負債額5,000万円未満の場合70万円
負債額5,000万円超1億円未満100万円
負債額1億円超5億円未満200万円
負債額5億円超10億円未満300万円
負債額10億円超50億円未満400万円
負債額50億円超100億円未満500万円
負債額100億円超250億円未満700万円
負債額250億円超500億円未満800万円
負債額500億円超1,000万円未満1,000万円
負債額1,000億円超1,000万円以上

引継予納金は何に使われるのか?

自己破産は、大きく「管財事件」と「同時廃止事件」の2つに分けられます。

個人破産の場合には、同時廃止事件とされることが多いです。


他方、法人が破産する場合、会社の保有財産が全くないというケースは稀であるため、そのほとんどが管財事件として取り扱われることになります。

管財事件では、裁判所により選任された「破産管財人」が、法人に代わって破産手続きを遂行します。

破産管財人は、会社財産等の調査・管理・換価処分など破産管財業務を行いますが、引継予納金は、この破産管財人の報酬に充てられます。

引継予納金の額は、負債額や債権者の人数などから想定される破産管財人の業務量により決定されますので、会社の規模が大きく、調査すべき財産や、対応する業務が多いほど、予納金も高額になってしまいます。

予納金は破産時の負担となる一方で、予納金制度を設定することにより、無用な破産を防止する役目も果たしています。

予納金の納付について

予納金は、破産手続開始申立と同時に納めるのではありません。

申立書を裁判所に提出した後、裁判所にて内容精査、債務額を判断し、予納金の額が決定されますので、申立て後、2週間~1か月で、裁判所から申立人に予納金の額について通知が届きます。


予納金額が決定したら、裁判所窓口にて現金納付、もしくは銀行振込にて予納金を納めます。

予納金に支払期限はありませんが、納付金を納めない限り「破産手続開始決定」が出されません。

なかなか予納金の納付がない場合には、裁判所から「破産申立てを取り下げてほしい」との連絡がくる場合もあります。


経営が立ち行かなくなってから、いざ破産しようと思っても、予納金を納めることができなければ、破産することもできないといった状況になってしまうのです。

2.予納金が支払えない場合の対処方法

予納金が高額になり、破産申立を行えない場合にはどうしたらよいでしょうか。


予納金が払えないことが、法人破産申立ができない理由になっている場合には、「少額管財事件」として扱うことで、予納金の額を軽減するという「少額管財制度」があります。

少額管財制度では、引継ぎ予納金は20万円程度となっています。


破産申立て時に、引継予納金に充てる20万円以上の財産がない場合には、同時廃止事件の取扱いとなることが多く、同時廃止の予納金は1万円前後になります。

管財事件にするか、同時廃止事件にするかは裁判所の判断になります。

少額管財事件と認められるための要件とは?

少額管財事件と認められるための要件は、以下のとおりです。

・弁護士が申立代理人になっていること(司法書士では認められない)
・申立前に相当程度の破産手続に向けた処理が終わっていること(売掛金回収、財産換価、不動産売却、債権者名簿作成など)
・債権者数、負債総額等から3~4カ月程度で破産手続が完了すると見込まれること

少額管財事件と認めてもらうには、事前に弁護士に依頼をし、経営状態の確認、売掛金の回収、会社保有資産の売却、債権者名簿作成などといった、法人破産手続きにおける必要書類の準備と対応を事前に済ませ、破産管財人の業務を減らしておく必要があります。


予納金は破産管財人の報酬に充てられるものなので、破産管財人の業務負担が少ない場合に、少額管財事件として予納金額を減額できるというわけです。


ただし、すべての裁判所が少額管財の制度を採用しているわけではありませんので、最寄りの裁判所が少額管財を採用しているかについて事前に確認する必要があります。

また、事情によっては予納金の分割払いを認めている裁判所もありますのであわせてご確認ください。

3.破産費用を工面する方法と注意点

少額管財事件として認めてもらうほかに、費用を捻出する方法については以下のようなものがあげられます。

①代表者の個人資産から捻出する

会社の破産費用が用意できないときに、代表者の個人資産から捻出する方法があります。

ただし、注意しなければならないのは、代表者本人が会社の負債に対して連帯保証人になっている場合です。

代表者が法人の連帯保証人となっていた場合には、代表者個人にも法人の債務に対する責任が求められるため、法人破産と同時に代表者の個人破産も行わなければならなくなります。

個人資産から法人破産の予納金を支払う行為は、代表者個人の資産を流出させ、結果的に債権者への配当が減る行為となってしまうため、やってはいけません。

②売掛金を回収する

未回収の売掛金がある場合には、それらを回収し、破産費用の支払いに充てることができます。

ただし、回収した売掛金から借金を返済したり、会社の事業継続資金に充てたりする行為は、破産の免責を得られなくなる可能性があります。


借金返済が困難になった状況で、親族など、特定の債権者にのみ返済を行う行為は「偏波弁済(へんぱべんさい)」という行為であり、破産管財人から否認される恐れがあります。

③会社の保有財産を適正価格で処分する

会社の保有する不動産・動産を売却し、現金化して、破産費用を捻出する方法があります。


ただし、資金集めを急ぐあまり、適正価格を下回る額で売却してはいけません。

なぜならば、会社財産を売却することで得られた資金は、債権者への配当金となりますので、資産をたたき売ってしまうと配当金も減ってしまうことになるからです。

また、②の場合と同じく、借金の返済や事業継続資金として使用することもいけません。

④弁護士の受任通知を送付し、借金返済をやめる

債権者に対し、弁護士が受任通知書を送付することで、債権者から債務者へ直接の借金の取り立てはできなくなります。

借金返済に充てていた費用を、破産費用にまわすことができるようになります。


ただし、通知のタイミングを間違ってしまうと、債権者からの取り付け騒ぎや、訴訟、差押え等が発生し、今よりも事態を悪化させることになります。

また、重要な従業員が離職するなど、事業自体を継続できなくなる事態も起こりうるため、通知のタイミングを見極める必要があります。

4.法人破産を検討している場合は、早めに弁護士へご相談ください

本コラムでご紹介したとおり、法人破産にも費用が必要です。

費用が用意できないからといって、破産手続きを行わないままでいることは、いつまでも債務を消滅させることができず、代表者の生活再建ができなかったり、債権者による取り付け騒ぎが起きたりなど、両者にとって痛手となってしまいます。


法人破産の手続きを弁護士に依頼することで、破産費用の適正な捻出や、債権者に対する信用、予納金の減額など、破産手続きを進める上で多くのメリットがあります。


また、破産手続きにおける必要書類の準備や、従業員への説明、債権者集会の対応など、経営者の方の精神的負担も軽減することができます。


会社の経営状況が悪化した際には、弁護士に早期にご相談いただくことで、破産手続きではなく、大切な会社を残す「事業再生」という選択肢も検討できるようになります。

事業再生とは、民事再生やM&A(事業譲渡・会社分割)、債権者との任意交渉、中小企業再生支援協議会等を利用した金融機関との交渉などです。


会社の経営でお困りの場合は、早い段階で、まずはお気軽に弁護士にお問い合わせください。

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この記事を監修した弁護士
弁護士 下山田 聖

下山田 聖
(しもやまだ さとし)

一新総合法律事務所 
理事/高崎事務所長/弁護士

出身地:福島県いわき市
出身大学:一橋大学法科大学院修了
主な取扱分野は、企業法務(労務・労働事件(企業側)、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)、交通事故、金銭問題等。そのほか離婚、相続などあらゆる分野に精通しています。
企業法務チームに所属し、社会保険労務士を対象とした労務問題解説セミナーの講師を務めた実績があります。