民事保全手続を利用して債権の一部回収に成功した事例
<相談前>どんな事で困っていたのか
卸売業を営む株式会社から、取引先である小売店から売掛金の回収ができていない上、その小売店が破綻するかもしれないという噂が流れ始めたと心配になり、相談をうけました。
破綻の噂がどの程度信憑性あるものか不明でしたが、相談会社の担当者は、費用をかけてでも直ちに回収の手続を取りたいと希望されていました。
<相談後>状況はどのように変わったのか
相談の結果、幸運にも相談会社が相手方の売掛先の一部を把握しており、相手方の第三者に対する債権を差し押さえることが考えられました。
また、相談会社の売掛金の存在が明らかであり(基本契約書と個別の納品書、請求書等がしっかりと整理されていました。)、支払期限を徒過している事実も証拠書類から明らかでしたので、相談者の意向もあり、急ぎ債務者の財産を保全する必要が認められたことから、民事保全手続を取ることを決断されました。
結果として、相手方の売掛債権を仮差押することができ、本案訴訟で請求認容の確定判決を取得した後、売掛金の全額には満たない額でしたが、無事に回収を図ることができました。
弁護士からのコメント(見解)
債権回収は、中小企業の皆様が弁護士に依頼する場面が多い分野の1つです。
もっとも、常に債権が回収できるわけではなく、裁判所の手続をとったとしても、1円も回収できないケースも存在します。
そのためには、万が一の場合に備えた通常業務の見直しと、未回収が生じたときの適切かつスピーディーな対応が必要不可欠となります。
まず、通常業務において、きちんと債権(売掛金)の存在が明らかになる書類を作成しておくことが肝要です。
実際に未回収の問題が生じた場合に、契約書がきちんとしていない、契約書がない、というだけでなく納品書、請求書が適切に作成されていない等の事情があると、債権回収は困難を伴うことになります。
また、日常の債権管理が適切に行われていないと、迅速に債権回収を実施しなければならない場面に遭遇した際に、債権の整理だけで無駄に時間と労力をかけてしまうことになります(時間をかけた結果、回収機会を逃すということも十分あり得ます。)。
多くの方が、売掛金回収に支障が生じてから初めて弁護士に相談しているのが現状ですが、残念ながら、問題が起きる前に適切な対応をしているか否かが明暗を分けることが多いです。
次に、上記のように民事保全手続(仮差押えや仮処分の手続)をとる場合には、悠長に準備することができませんので、各種手続に精通した専門家の助力が不可欠となります。
民事保全手続では裁判所に担保金を積むことも必要となり、忘れてはいけないポイントとなります。