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2021.3.12

法務情報

ポストコロナの労務管理(弁護士:下山田聖)

この記事を執筆した弁護士
弁護士 下山田 聖

下山田 聖
(しもやまだ さとし)

一新総合法律事務所 
理事/高崎事務所長/弁護士

出身地:福島県いわき市
出身大学:一橋大学法科大学院修了
主な取扱分野は、企業法務(労務・労働事件(企業側)、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)、交通事故、金銭問題等。そのほか離婚、相続などあらゆる分野に精通しています。
企業法務チームに所属し、社会保険労務士を対象とした労務問題解説セミナーの講師を務めた実績があります。

はじめに

新型コロナウイルスの流行蔓延により、三密を避けるべく、これまで出社が前提だった勤務形態も、自宅勤務を推奨する等、従来と異なる形の勤務態様が一般化してきています。

今回は、ポストコロナの労務管理にスポットを当て、従来の取扱いの見直しや諸規定の整備について解説していきます。

 

また、テレワーク実施の体制整備に関しては、「テレワークモデル就業規則~作成の手引き~」(厚生労働省)、「テレワークセキュリティガイドライン」(総務省)、「テレワーク等への継続的な取組に際してセキュリティ上留意すべき点について」(内閣サイバーセキュリティセンター)など、公のガイドラインがいくつか公開されていますので、そちらも適宜ご参照ください。

 

テレワーク実施者の管理

 

テレワーク実施のニーズが高いとはいえ、業種や各従業員の仕事の内容によっては必ずしも自宅勤務が可能であるものとはいえず、また、会社に特段の報告もないまま従業員の判断でテレワークを行うことを容認すれば、従業員の労務管理が根本的に難しくなってしまいます。

また、後述するように、勤怠報告や使用PCのセキュリティの確認等、テレワーク特有の遵守事項もあります。

 

そのため、テレワークの導入に当たっては、諸規定を遵守することを前提に、各従業員に対して上長が個別に許可した場合にのみこれを認めること、業務上の理由等によりテレワークの許可を取り消すことがあること等を就業規則に明記した上、いつ、誰がテレワークをしているのか、会社側で一元管理できるようにしておく
ことが望ましいでしょう。
情報セキュリティの観点からは、衆人環境でPC作業をすることが望ましいとはいえませんので、テレワークの場所を「自宅その他のこれに準じる場所」等と限定して許可をすることも考えられます。

 

労務管理

テレワークといっても、仕事をする場所が会社やオフィスから自宅等に変更になっただけですので、就業時間や残業については、従前の取扱いと変わるところはありません。

そのため、テレワークになったからといって、就業時間を自由にできたり、残業代を支払わなかったりすることはできません。

 

 

しかし、現実問題として、会社やオフィスにいるときのように、個々の従業員が仕事・残業をしているのかどうか、直接目で見て確認することはできません。

そのため、勤怠管理については、業務開始時と終了時に上長に報告することとするか、または、社内の労務管理システムが社外でも使用できるのであればそのシステムに勤怠を入力する等して、テレワーク時の勤怠を正確に記録するよう、従業員に周知徹底する必要があります。

 

残業をする場合でも、従業員個々の判断による残業は認めず、必ず上長に残業時間の見込みや残業理由等をメール、電話等適宜の方法で報告し、上長の承認を必要とするような内容に規定を整備する必要があるでしょう。

 

通勤手当の取扱い

前に述べたように、テレワークといっても就業場所が変わるだけですので、基本給等を減額することはできません。

しかし、通勤手当は、従業員が会社に通勤することを前提とする手当ですので、テレワーク時にも全額を支給するかどうかについては検討が必要です。

 

個々の従業員に支給する通勤手当の算出方法は、会社ごとに様々に設定されていると思います。

通勤手当につき、実費支給(実費 × 通勤日)ということであれば、テレワークをせずに通勤した日にかかった通勤費実費のみを支給すれば足ります。

一方、就業規則上、実際の出社実態にかかわらず、通勤距離に応じてひと月の固定の通勤手当を支給することとなっている場合には、規定の見直しや取扱いの変更が必要です。

規定方法の一例としては、「テレワーク実施中の場合には、毎月定額の通勤手当を支給することとせずに、実際に出勤に要した費用の実費のみを通勤手当として支給する」などが考えられます。

 

ただ、実費のみを支給とした場合、テレワーク実施中の従業員の人数があまりにも多くなると、通勤手当の算出・支給だけでもかなりの手間となることも考えられますので、総務部とも連携した規定整備を進める必要があります。

 

セキュリティ規定の整備

テレワーク導入のために必要なPCの供給が追い付かないことにより、会社で使われていなかった古いPCを使用したり、個人所有のPCを使用したりする事例が増えています。

これらのPCは、セキュリティ対策が不十分であることもあり、これを狙って日本企業に対するサイバー攻撃が増えているとの報道もありました。

 

会社側で一元管理をしているPCをテレワーク時に各従業員に貸し出す形であれば、個々の従業員が特段の対策を採る必要性は低いですが、そうでない場合には、PCの使用に際して、遵守、留意すべき事項を、何らかの規定の形で整備しておく必要があります。

 

具体的には、会社側でどの端末を誰が使用しているのか台帳等で管理した上で、無許可でのソフト、アプリ等のダウンロードを禁止すること、ウイルス対策ソフトを常に最新のものに保つこと、情報漏えいの可能性があれば担当者や上司に対する速やかな報告を義務付ける等、従業員に対し注意喚起をするとともに行動指針を
示すことが必要です。

 

まとめ

テレワーク自体は、三密を避けた感染予防のみならず、従業員の意向にそった柔軟な勤務体制であるというメリットもあり、会社としてもこれを推奨したいニーズはあると思います。
労務、セキュリティの諸規定を整備することにより、安全かつ効率的な業務遂行が実現できることと思います。

 

 

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2021年1月5日号(vol.252)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

 

 

 

 

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