はじめに
令和元年 12 月 4 日に会社法の一部を改正する法律が成立しました。
今回の改正は、会社をめぐる国内外の社会・経済情勢の変化を踏まえ、我が国の資本市場の公正性・信頼性を担保するために、取締役の職務執行の一層の適正化
等を図ることを主眼とするものです。
企業統治(コーポレートガバナンス)の強化は独り大企業のみに求められるものではありません。
地方経済の担い手である中小の企業にとっても、時代に不可欠な要請といえるでしょう。
本稿では、会社法上の役員、とりわけ取締役が負う法的義務と、そこから導かれる業務適正確保体制(いわゆる内部統制システム)について説明した後、コーポレートガバナンス強化のための各種社内規程について紹介します。
役員(取締役)の負う法的義務について
会社法上の役員としては、取締役、会計参与、監査役及び執行役(指名委員会等設置会社の場合)が挙げられます。
これらの役員と会社との関係は法律上委任関係にあるので、役員はいわゆる善管注意義務を負います(民法 644 条)。
また、取締役については、これに加えて会社法上忠実義務を負うとされています(会社法 355 条)。
取締役の義務はこれだけにとどまりません。
判例・学説では、善管注意義務と忠実義務から導かれる義務として、会社の業務の適正を確保するための体制、いわゆる内部統制システムを構築する義務も負うと考えられています。
内部統制システムについては、会社法施行規則 98 条及び 100 条にも定めがあります。
① 取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制 ② 損失の危険の管理に関する規程その他の体制 ③ 取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制④ 使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制 ⑤ 当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制 |
非常に抽象的ですが、要するに、会社の役員や従業員が法令違反や不正をしないように抑止すること、またヒューマンエラーを予防し、万が一問題が生じた場合にも適正に対処できるように、しっかりと事前に準備を整えておきましょうということです。
これまで同族会社などでは役員同士が馴れ合いの関係になってしまい、問題が生じても場当たり的な対応で終わらせることが多かったかもしれません。
しかし、会社に対する社会一般の信頼を確保するためには、これまでとは違う枠組みが求められているといえるでしょう。
社内規程整備の必要性
このように取締役は内部統制システムを構築する義務を負うのですが、その一環として、取締役やその他役員の職務に関する基準をあらかじめルール(社内規程)として設けておくことが有益かと思われます。
このような社内規程は、会社法上明文で作成が義務付けられているものではありません。
しかし、社内規程を整備しておくことは、内部統制の手段としては非常に有効と考えられます。
以下では、社内規程の例を紹介したいと思います。
① 役員規程
役員に関する内部規程一般を役員規程と呼ぶこともありますが、ここでいう役員規程とは、より具体的に、役員の要件や任期、退任・解任に関する事由、報酬に関する規程等を盛り込んだものを指します。
競業取引や利益相反取引の制限といった会社法上の規制を確認的に盛り込むこともあれば、退任後の競業避止義務や機密情報の保持義務などを定めることもあります。
② 役員行動規程
役員が法令を遵守しなければならないのは当然ですが、一言で法令遵守といっても業務上の多種多様な局面で適切な判断を下していくことが求められます。
そこで、法令で禁止される事項や、業務執行上特に注意すべき事項を役員行動規程として定めておくことで、役員の法令遵守意識を高めようとするものです。
③ 役員報酬規程
これは役員の報酬の支給基準について規定するものです。
役員報酬が過大と評価されれば税務署の調査で否認されるおそれがあります。
そこで、税務上のリスクを回避するために役員報酬について規程で定めておくことが有用です。
④ 内部統制規程
上記のとおり、内部統制システムの内容は非常に抽象的なので、社内規程により具体化しておくのがいいでしょう。
例えば、内部統制室といった専門の部署を設置したり、代表取締役以外の取締役の監視義務を設けたりすることがあります。
⑤ 内部通報規程
万が一会社に不祥事が生じた場合、問題が大きくなる前に迅速に対応することが極めて重要です。
会社の不正や違法行為は、初期の段階では内部の者しか知りえないことが通常ですので、早期対応のためには内部通報を促し、通報者を保護することが不可欠といえます。
そこで、通報の窓口や調査の手続、通報者保護のための仕組みについて定めたものが内部通報規程です。
終わりに
その他にも取締役会規程や社外取締役規程といったものがあり、会社の規模や特性に応じて様々な内容の社内規程が考えられます。
社内規程に関心のある方は是非一度当事務所の弁護士にご相談ください。
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2021年6月5日号(vol.257)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。