気候変動時代の労務「災害対応Q&A」

災害列島日本――。

地球規模の気候変動による影響なのか、「数十年に一度」のはずの激甚災害がもはや恒例となり、「過去最大級」は毎年更新されている感があります。

今年(2019年)も台風15号、台風19号が猛威を振るったことは、皆さんの記憶にも新しいところではないでしょうか。

当事務所の顧問先・関係先でも、大きな被害を被った方が少なくありません。心よりお見舞い申し上げる次第です。

 

そこで、本稿では、気候変動時代を生き抜く企業を応援すべく、自然災害時の労務の基礎知識をQ&A方式でまとめてみました。

以下、労働基準法を「法」と略称します。

 

 

会社が被災してたいへんな状況でも、従業員に働いてもらった以上は、賃金を支払わなければならないのでしょうか?
支払わなければなりません。法24条は、 使用者の労働者に対する賃金の全額払いの 義務を定めており、自然災害時も例外ではありません。
弁護士
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会社が被災して事業が継続できないので、一時的に休業することにしました。この間、従業員に休業手当を支払わなければならないのでしょうか。
法 26 条の定めるところにより、「使用者の責に帰すべき事由」がある場合は休業手当(平均賃金の 60% 以上)を支払わなければならず、ない場合は支払わなくてもよいことになります。
弁護士
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具体的には、①その原因が事業の外部より発生した事故であり、かつ、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であれば、「使用者の責に帰すべき事由」はないものとして、休業手当支払義務は発生しないと解されています。

逆にいえば、自然災害そのものは不可抗力であるにせよ、たとえばサプライチェーンの維持等につき経営体制に不備があると、「使用者の責に帰すべき事由」として認定され、休業手当支払義務が発生することになります。BCP(事業継続計画)の重要性はここにもあります 。

 

 


 

 

災害対応のために従業員を社内で待機させた場合、賃金を支払う必要がありますか?自宅待機の場合はどうですか?
判例上、待機時間に賃金が発生するか否かは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれているか否か」「当該時間に労働者が労働から離れていることを保障されているか否か」を基準として判断されます。
弁護士
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この基準からすると、社内待機については、 基本的に労働時間として賃金が発生する可能性が高く、そうでない場合というのはかなり例外的であると思われます。

 

これに対し、自宅待機については、待機態勢のあり方によって例外はありうるものの、多くの場合、賃金は発生しないものと思われます。 

 

なお、別の論点になりますが、社内待機にせよ自宅待機にせよ、あるいは待機後に業務に出動させるにせよ、当然、使用者には安全配慮義務がありますので、労働者の安全第一で行わせる必要があります。

 

 


 

 

災害復旧のために必要な緊急対応があり、どうしても長時間労働になってしまいます。このような非常事態でも、法定労働時間や36協定で設定していた労働時間、法定休日は遵守しなければならないのでしょうか?
法 33 条は、「災害その他避けることのできない事由によって臨時の必要がある場合」「行政官庁(注:具体的には労基署長)の許可を受けて」「必要な限度において」、時間外・休日労働を許容しています。
弁護士
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事態急迫のため事前に許可を受ける暇がない場合は、事後に遅滞なく届け出ることによっても許容されます。

 

ただし、割増賃金(時間外割増手当、休日労働手当、深夜手当)は発生します。

また、緊急災害時にのみ認められた特別の制度であるため、上記の要件については、厚労省の通達でも厳格に運用すべきものとされています。

 

 


交通網は復旧しつつあるものの、一部運休や混雑が続いています。始業・終業時刻の繰上げ・繰下げや時差出勤、在宅勤務(テレワーク)を検討しているのですが、可能でしょうか?
始業・終業時刻の繰上げ・繰下げは、労働契約上定められた労働者が就労義務を負う時間帯を使用者が一方的に変更するものなので、あらかじめ労働契約や就業規則に根拠規定を設けておく必要があります。
弁護士
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そうでなければ、災害発生後の緊急事態の中で、就業規則を変更し、あるいは個々の労働者との間で労働契約を一部変更する合意を締結しなければならなくなります 。

 

時差出勤については、労働者の意思に基づくものである限りは特段の手当てを要することなく可能ですが、使用者側の指示による場合もありうることからすると、やはりあらかじめ労働契約や就業規則に根拠規定を設けておくべきです 。

 

 

在宅勤務(テレワーク)については、労働者の出勤を免除するという労働者に有利なものである点、特段の手当てなく認められる余地があります。

 

もっとも、法 15 条(及び労基法施行規則 5 条 1 項 1 号の 3)は、使用者が労働者に対し労働条件として就業場所を明示する義務を定めているので、この点からすると、あらかじめ労働契約や就業規則に根拠規定を設けておいたほうが無難です。

 

 


<参考文献>

・厚生労働省「令和元年台風第19号による被害に伴う労働基 準法・労働契約法に関するQ&A」(令和元年11月1日版)

・峰隆之「人事部のための災害対応の実務」労政時報3977号

 

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2019年12月5日号(vol.239)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

 

 

この記事を執筆した弁護士

弁護士 山岸 泰洋

一新総合法律事務所
弁護士 山岸 泰洋

一新総合法律事務所理事・東京事務所所属。 2008年弁護士登録。
さまざまな法分野や法手続に跨る複雑な紛争案件を、機動的に解決することを身上としております。 件数としては不動産関係の民事訴訟(保全・執行を含む)が多いですが、会社関係(支配権争い)及び建築関係の民事訴訟、行政争訟、国際仲裁など、専門性の高い分野の案件の経験も積んできました。
クライアントの真のニーズは何か、問題の本質はどこにあるかを常に意識し、戦略的かつ機動的に、皆さまの「健康」の回復・維持・増進に全力を尽くします。

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