中小企業のM&Aについて

 

 

1. M&Aとは

M&Aとは、Mergers and Acquisitionsの略で、「合併と買収」を意味します。

数年前までは、M&Aというと、大企業が行うものというイメージが持たれていましたが、現在では、中小企業がM&Aに関わるケースも増えています。

 

後継者難に悩む中小企業にとってM&Aの手法により、身内ではない第三者に事業承継する手法は広まっています。

2019年12月には、経済産業省が、黒字廃業の可能性のある中小企業の技術・雇用等の経営資源を次世代の意欲ある経営者に承継・集約することを目的として「第三者承継支援総合パッケージ」をまとめました。

この中では、年間6万者、向こう10年間で60万者の第三者承継の実現が目標に設定されています。

2. M&Aの手法

中小企業がM&Aを行う際に利用される手法には、以下のような方法があります。

いずれの方法を選択するか判断するにあたって、M&Aの経験のある専門家の助言を得ることが肝要です。

 

 

○株式譲渡

譲渡会社の株主が、譲受会社に譲渡会社の株式を売却します。

これにより譲渡会社が譲受会社の子会社となります。

 

○株式交換

株式交換契約を締結し、譲渡会社の株式全部が譲受会社の株式等と交換されます。

これにより、譲受会社が譲渡会社の株式全部を取得し、子会社化することができます。

 

○吸収合併

譲渡会社が譲受会社と合併することで、譲渡会社が消滅し、その権利義務全てを譲受会社が承継します。

 

○事業譲渡

譲渡会社の事業のうち、一部を譲受会社に譲渡します。

○会社分割

譲渡会社の事業のうち、一部の事業を別会社に分割し、譲受会社に売却します。

 

 

3.M&Aの流れ

 

(1) 自社の分析、事業の「磨き上げ」

まずは、自社の分析と事業の「磨き上げ」を行うことが必要となります。

 

自社の分析ですが、事業内容(特に、承継の対象となる中心事業の概要、強み・弱み、業界の情勢等)、財務状況、関係する金融機関・取引先等ステークホルダーの状況について分析をする必要があります。

このことが、手法の選択、譲受候補者に対する自社アピールの内容等に影響してきます。

また、株主構成や自社が得ている許認可についても調査をすることが必要です。

 

そして、有利にM&Aを進めるためにも、経営改善等(一般的に「磨き上げ」と表現されます。)も行われます。

 

(2) マッチングと交渉

M&Aを実行するにあたり、譲受候補者がはじめから決まっているケースはあまり多くないでしょう。

M&A仲介業者の利用や金融機関・取引先からの紹介により譲受候補者を見つけていくことが多いでしょう。

 

その際に、譲受候補者が譲渡会社の経営者の思い(M&Aを行う狙い、目的)に合致する相手かどうか、譲受候補者としては、自社の事業とのシナジーの有無などを考えながら、適切な相手を選定するマッチングを行います。

 

その後、候補者を1者若しくは数者に絞った後、具体的な条件について交渉してくこととなります。

 

交渉の過程で、双方とも自社の企業秘密に含まれる情報を互いに開示することも想定されますので、秘密保持契約書を締結することが求められます。

 

(3) 基本合意書の締結

譲受候補者から1者が決まり、M&Aを実行することが大枠で合意できた場合に、譲渡会社と譲受会社との間でM&Aの基本合意書を締結します(ごく零細の企業間におけるM&Aでは基本合意書の作成無しに、直ちに最終契約書を作成する例も見受けられます。)。

 

(4) デューデリジェンス

デューデリジェンス(以下「DD」という。)は、主に譲受会社が、譲渡会社の財務状況、法務、税務、事業リスク等の実態について、専門家(弁護士、公認会計士、税理士等)に依頼をして調査を行うことをいいます。

 

DDを慎重に行えば行うほど、最終契約後のトラブル回避を図ることができますが、DDを専門家に依頼するためにはそれなりの費用が必要となりますので、当該M&Aの規模感などを勘案して、適切な範囲での調査を行うことが必要です。

 

(5) 最終契約とクロージング

DDで発見された問題点の解消や基本合意書作成時点では未確定となっていた事項について協議により定め、最終契約を行います。

 

最終契約において、譲渡の対象物が何か、譲渡価格、譲渡時期、対価の支払方法、経営陣・従業員の処遇等、表明保証(当事者双方が取引を実行する能力・対象となる有形・無形資産を有していることの確認等を含め、このM&Aの契約に際して求められている事項を明らかにし、仮に違反した場合にどのような補償等を求められているかについて定めたもの)などを定めます。

 

そして、最終契約どおりに対象となる事業や株式の譲渡、対価の支払いがなされますとM&Aが完了することとなります(クロージング)。

 

 

4.M&Aに弁護士が関与する意味

 

M&Aの手続では上記のように、全ての段階で専門的な知識に基づく判断を要したり、適切な契約書の作成を要することとなります。

そのため、法律の専門家である弁護士が関与する必要性が高い手続といえるでしょう。

 

実際には、M&A仲介業者や税理士等のみが関与し、弁護士が関与しないM&A案件が多数存在しています。

 

しかし、契約書作成・チェック、法務DD、といったスポットでの関与は当然のこと、全体を通じて法的観点からリスク分析を行い、最善の方法選択と、円滑な手続進行を実現するために弁護士が関与することも考えられます。

弁護士が関与する形態としては、以下のようなものが考えられます。

 

(1) 各種契約書、書類作成場面での関与

基本合意書、秘密保持契約書、最終契約書の作成もしくは相手方から提示された契約書のチェックを弁護士が行うことが考えられます。

 

 

(2)法務DDの実行部隊としての関与

法務DDの実施が必要な案件において、法務DDを実施し、報告書を作成する形で関与する事が考えられます。

 

 

(3)労務問題等、個別の問題に対する対応

ある程度の規模のあるM&Aの場合には、M&Aの実行により不可避的に何らかのトラブルが生じることがあります。

M&Aを契機として従業員の雇用関係に影響が生じ個別労使紛争が生じる場合などが考えられます。

 

そのような場面で、弁護士が会社の代理人として対応することが考えられます。

 

 

(4)顧問弁護士としての関与

当該企業と顧問契約を締結している弁護士が、M&Aの手続中、顧問契約に基づいて随時法的助言を行うことが考えられます。

この場合には、当該M&Aの手続が全て終了した後も、譲受会社の事業運営に関して、適切な法的助言を行うことができます。

 

 

(5)M&Aアドバイザーとしての関与

当該企業と顧問契約にあるか否かに関わらず、M&Aの手続全般をサポートする業務です。

M&Aの検討から最終のクロージングまで、手続全般的にアドバイザー・代理人として活動します。

 

また、弁護士が公認会計士や税理士とチームを組んで対応し、法務・財務・税務の面で問題が生じないよう適切に対応することが考えられます。

 

 

5.弁護士が関与する場合の費用について

上記4のとおり、弁護士がM&Aに関与する度合いは千差万別です。

そのため、費用についても関与の度合いで大きく異なり、一概には決まりません。

 

当事務所では、案件ごとに、依頼会社の予算感やM&Aの規模感などから適切な関与の程度と費用を見積もり、ご提示し、ご納得いただいた上で関与させていただいております。

 

 

6.さいごに

 

近年M&Aの広まりにより、M&Aの基本合意書1つをとってみても、様々な雛形がネット上で発見できるようになっています。

そのため、大して法的知識を持たずともM&Aが実行できるかのように思われている方も少なくないかもしれません。

 

しかし、1000の企業があれば1000通りの企業文化・事業があるように、全く同一のM&Aは2つとして存在しません。

そのため、インターネット上に存在する汎用的な雛形が、御社のM&Aに本当に適切なものかどうか、今一度ご確認いただきたいと思います。

 

御社のM&Aが成功裏に終わり、事後のトラブルをできるだけ回避できるよう、法的な側面について、弁護士に相談することを是非一度ご検討下さい。