株式の差し押さえについて(弁護士今井慶貴)

 

たとえば、債務者に対して金銭の支払いを命ずる判決を取得した場合に、債権者は、その債務者が保有する株式の差押えができるでしょうか。

債権者のもとに「株券」がある場合

まず、債務者のもとに「株券」がある場合には、執行官に申し立てて動産執行を行います。

上場株式の場合には市場性があるので評価は容易ですが、非上場株式(特に譲渡制限株式)は評価が困難であり、無価物として差押えされない場合も多いようです。

 

差押えられると、執行官が評価人に評価させた上で売却に付されることになります(譲渡制限株式の場合には、買受人は発行会社に譲渡承認請求をし、承認されない場合には会社に株式買取請求権を行使します。)

 

次に、上場会社の場合には、株券の電子化により証券会社等の振替口座で株式を保有する場合が多いでしょう。

振替株式の強制執行は、執行裁判所による差押命令により開始され(民事執行規則150条の2以下)、それにより債務者は処分を禁止され、振替機関や口座管理機関は、振替等が禁止されます。

 

換価は、執行裁判所が定めた価額で支払いに代えて差押債権者に譲渡する命令(譲渡命令)や、執行官その他の執行裁判所が相当と認めるものに対して、執行裁判所の定める方法により売却することを命ずる命令(売却命令)により行われることになります。

債権者のもとに「株券」がない場合

では、債務者のもとに「株券」がない場合はどうなるでしょうか。

この場合、債権者は株主の権利の総体である「株式」を「その他の財産権」として差し押えます(民事執行法167条)。

 

そして、株券発行会社の場合には、取立権に基づき株主の有する株券発行請求権を行使して、株券を発行して執行官に引き渡すことを会社に請求でき、交付を受けた株券を前回説明した動産執行の方法により換価します。

 

また、会社が株券発行に任意に応じないなど前記の方法では困難な場合や、そもそも株券不発行会社の場合には、譲渡命令・売却命令その他相当な方法による株式の換価を命ずる執行裁判所の命令(同167条1項、161条)を求めることができるものとされています。

 

この「譲渡命令」というのは、株式の評価額(公認会計士等が鑑定人となる)をもって債権者が株式を取得する手続きであり、債権者が債務者の有する債権者発行株式を自己株式の取得として差し押さえることもできます。

 

そして、譲渡命令等により株式を取得した場合も、株式譲渡制限がある会社の株式である場合には、株式取得者は会社に対して譲渡承認の手続きをとる必要があります。

 

弁護士 今井 慶貴

 

<初出>

・顧問先向け情報紙「こもんず通心」2014年3月17号(vol.146)企業・団体チーム14

・顧問先向け情報紙「こもんず通心」2014年3月17号(vol.146)企業・団体チーム15

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。